ダイアモンド・ガス・オペレーション株式会社


賢人達の視点

2005年12月07日
変化するグローバルLNGビジネス、日本市場への影響(Q&A)

 今週は、第13回ダイアモンド・ガス・セミナーの紹介シリーズ最終回として、アンディ・ フラワー氏の講演後に行われました質疑応答と、後日、同氏より補足説明として回答いただいた内容をご紹介いたします。

Q1:LNG価格の見通しについてお尋ねします。価格フォーミュラはどのように変化していくとお考えですか。また、現在JCC (Japan Crude Cocktail)リンクとなっている日本(アジア) 向けLNG価格の今後のフォーミュラの変化についてどのようにご覧になりますか。

A1:分かりやすいJCCリンクからお答えしましょう。JCCリンクが使われてきた理由は理解できますが、 今後契約書に使われる事例は徐々に減ってくると思います。と言うのも、買主と売主は、前もってヘッジを行うことで、 つまり価格リスクをカバーする為に先渡し市場を利用することで、このリスクを管理できるようにしたいと考えているからです。勿論、 JCCは取引されていません。ブレントやウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI) など実際に取引が行われている銘柄の原油価格が存在しており、JCCはこれらと密接にリンクしているのです。今後は、 ブレントや同様の指標が価格フォーミュラに用いられる事例が増えると思われます。欧州では実際にそうなりました。 これまで欧州では原油のバスケット価格や重/軽油価格などが一般的に用いられていましたが、 今日ではブレントを指標とするフォーミュラが増えてきています。

Q2:日本の電力・ガス会社などエネルギー会社の上流部門への進出について、そのメリット、及び今後の拡大の可能性について、 どのようにお考えですか。

A2:買主だった企業が上流に進出するのを興味深く観察し、その動機を理解しようとしてきました。私には、 液化やガス埋蔵量のほうが収益性が高いのではないかという考えや、 国内の自由化により市場シェアが縮小しつつある中で事業拡大の継続を願う気持ちや、上流の状況をよりよく知ることでリスクを共有し、 自社のサプライチェーン(原材料の生産から供給に至るまでの全プロセス)に対する支配力を高めるため、 といった様々な意識が混ざり合っているように見えます。
 プロジェクト自体という観点で言えば、買主の上流参画がプロジェクトに何をもたらすのかを考える必要があると思います。 買主は何をもたらしますか。何を持っていますか。コストの範囲内でどのように上流部門の効率化を図るのでしょうか。それに、 当然のことながら買主が売主になり得る状況が発生します。買主が売買両方の当事者になるという潜在的な矛盾にどう対応しますか。 そんな状況で、対等な立場での交渉が可能でしょうか。
 私は、現状をこのように見ています。買主の上流進出は今後も続くでしょうから、 より効果的な方法で行われるように規範を考える必要があります。ひいては、双方(買主及び従来的な意味での売主)が、 より好適で有利なプロジェクトに参画することになるのです。

Q3:将来のLNG市場は買い手市場ではなく売り手市場になると伺いましたが、その根拠が理解できませんでしたので、 もう一度ご説明をお願いします。加えて、スポット市場拡大の可能性についてお伺いします。 アジア太平洋市場において今後どの程度まで拡大するとお考えですか。拡大に必要な条件については、どのようにお考えですか。また、 アジア太平洋市場で<図1>のようなアグリゲーション・モデルは実現可能でしょうか。
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A3:第一に、売り手市場/買い手市場の判断において、白か黒かの二者択一は不可能です。この時は売り手市場で、あの時は買い手市場、 という判断は出来ません。特定の状況次第なのです。ここ数年の間に、特に太平洋地域において変化したのは、 米国市場の開放とその価格水準です。4-5年前、生産者は米国市場に対して非常に神経質になっていました。2001年、 ヘンリーハブが9ドル/百万Btuだった1月には価格も好調で、LNGを米国に販売すれば世界中の誰でも利益を上げることが出来ました。 しかしその9ヵ月後、価格は2.25ドル/百万Btuまで下がり、米国において利益を上げ得たのはトリニダード・トバゴだけとなりました。
 売主、つまりガス生産や液化、船舶などに長期投資をしている企業は、 LNGプロジェクトの巨額な投資において価格リスクを負う覚悟はありませんでした。しかし、 米国価格が変動したことにより企業はリスクを負うことが出来るようになった、というのが今や大半の見方です。管理可能なリスクなのです。 投資の根拠として十分な高値に見えます。今では銀行も米国/英国価格リスクを受け入れています。 カタールガスⅡプロジェクトは英国価格リスクを伴いましたし、英国価格はかなり変動的ですが、 数々の銀行が融資を提供しようと躍起になりました。
 今日では、常に米国/英国進出の機会がありますし、その為の長期契約は不要です。皆さんは長期契約を締結済みかもしれませんが、 だとしても価格が柔軟な契約でしょう。4-5年前に広東が330万トン/年のLNG供給入札を実施した時のことを思い出してください。当時、 米国市場は流動的過ぎましたし、日本は確保している以上のLNGを必要としていませんでした。韓国には契約を締結できる企業がなく、 台湾でもLNGは足りていました。中国が330万トン/年の供給を求めたとき、生産者は皆何とか契約を取ろうとし、その結果、 価格が暴落したのです。
 従って、その当時はほぼ買い手市場だったのですが、現在はむしろ売り手市場であると思います。と言うのも、 世界市場には売主に対するオプションのほうが多いからです。しかし、全ての生産者が米国/ 英国市場向けの販売を望むようになるということではありません。日本の電力/ガス会社のように、 米英とはタイプの違う契約やリスクを提示する、安定した買主との契約を望む生産者がいることも確かです。従って、米国の価格リスクは、 例えば日本の電力/ガス会社などといった異なるリスクでバランスを取ることが可能なのです。皆さんは、 そのために様々な契約を取り合わせたポートフォリオの構築を模索するのではないでしょうか。

 第二に、アジア太平洋地域におけるスポット市場に関する質問にお答えします。単にどこまで拡大するかという判断は難しいのですが、 この地域の買主は益々柔軟性を求めるようになってきているようですし、短期市場はその柔軟性とマージンを提供することが出来ます。ただ、 パイプライン・ガスという代替案のないアジアの買主の殆どは、今後もLNG供給の大半を長期契約で獲得したいと考えるはずです。 短期市場を利用する買主が増えているわけですから、彼らがその術を習得すれば、取引を通じて付加価値を生むことができると気付くでしょう。 そうすれば、短期取引は増えると思います。これまで長期契約に頼ってきた企業の一部も、今では短期市場に参入し、その術を学び、 更に発展させたいと考えているように見受けられます。
 個人的には、状況を変える要因の一つは北米西海岸だと思っています。柔軟性のある米国市場とアジアの距離を、今まで以上に縮めるからです。 例えば豪州のプロジェクトから東海岸へ船を往復させると60日近くかかりますが、西海岸なら僅か35-37日程度です。 そのため更なる柔軟性が生まれ、太平洋地域での取引は活性化するでしょう。どこまで拡大するのか予測することは非常に難しいのですが、 昨年5%伸びたことから、2010-2012年を目処に10%、その後、更に15%拡大すると考えるのが妥当かと思います。

 では次に、この地域でのアグリゲーション・モデルの実現性についてお答えします。私はこれを世界的なモデルと考えています。 このモデルを展開させるのに最も有利なポジションにいるのは大西洋で活動する企業だとは思いますが、こうした企業も、 アジアと取引したいと考えるでしょうし、東南アジアや豪州のプロジェクトからLNGを購入して韓国や日本、 或いは台湾の買主に供給することもあり得ます。そういったことが、実際に行われていると思います。 企業が短期取引を促進する一面もあるのです。また、日本の商社の中には、 少なくとも事業の一部をこのようなモデルに移行しつつあるところも出てきています。

Q4:2008年北京オリンピック、2010年上海万博を控えている中国は、国の威信をかけて、国策3社(中国海洋石油総公司: CNOOC/中国石油天然ガス集団公司:CNPC/中国石油化工集団公司:SINOPEC)によるLNG受入基地の建設、 及びそれに見合うLNG契約を進めると思われますが、現状とのギャップ(LNG不足)を埋めるような新たな動きはあるのでしょうか。

A4:高い潜在需要を持つ中国は、今後のLNG事情を考えるだけでも興味深い国だと言えます。しかし、 その潜在性を現実のプロジェクトに発展させるのに15-20年かかったという事実も無視できません。中国初のLNG輸入は、 来年ようやく実現します。同国はかなり割のいい契約を結びました。タングー・プロジェクトから福建省向け、及び豪州北西大陸棚(NWS) プロジェクトから広東省向けの契約です。これらは非常に条件のよい契約だと思います。今日の原油価格が約60ドル/バーレル、 つまり10.50ドル/百万Btu相当なのに対し、両契約の価格は3.25ドル/百万Btu前後です。 中国は原油価格の3分の1相当でLNGを調達するのです。この価格なら、再ガス化されたLNGは市場で競争力を発揮できます。問題は、 今後の契約はどうなるのかということです。このように好条件の取引は、将来的にも可能でしょうか。中国に、 LNGの世界価格に近い金額を支払う余裕があるのでしょうか。
 中国政府は最近、国内の基地を1省につき1ヵ所に規制したようですので、 同一地域内に複数プロジェクトが存在することによる混乱は多少なりとも解消されるでしょう。これにより、供給の確保がより明確になります。 どのプロジェクトが実施されるのか、生産者はどのプロジェクトと交渉すべきなのか、が明確になるからです。

以下は、講演当日フラワー氏にお尋ねすることができなかった質問と、後日、同氏よりいただいた回答です。

Q5:LNGには供給源毎にそれぞれ異なる品質や熱量があるため、受入先のパイプライン・ システムに送出する前に適合性を考慮する必要があるかと思います。米国及び欧州ガス市場それぞれにおける、 このような課題に対する一般的な取り組みを教えてください。

A5:LNGの品質や熱量は、供給源によって大きく異なります。 LNGプラントに持ち込まれるガスの成分及びプラントの設計に左右されるのです。アラスカ産LNGの熱量は最も低く1,020Btu/ 基準立方フィート(Scf)程度で、オマーン/リビア産は最も高く約1,160Btu/Scfです。
 ガス燃焼機器、特に一般家庭/産業用市場で使用されるものは、通常、狭い範囲の品質及び熱量のガスを燃焼するように設計されています。 規格外のガスを供給すると、不完全燃焼や有毒な一酸化炭素の発生、或いは火が消えて爆発が起こるなどの危険が生じます。 例えば英国のガス燃焼機器は、比較的低熱量で、厳しく制限されたウォッベ指数(ガスの燃焼性を表す指数) 範囲内のガスを燃焼させる仕様になっています。実のところ英国では、ガスの品質に関する主な問題は熱量ではなく、このウォッベ指数なのです。
 米国には、天然ガスからエタンやプロパン・ブタンなどLPG(液化石油ガス)を分離するガス処理プラントが数多くある為、 ガス網に送出されるガスの熱量は低くなります。対照的に、日本は初めてガス網を構築するに当たり、 (最初は低熱量のアラスカ産LNGが供給されたにもかかわらず)輸入LNGという視点から比較的熱量の高いガスの受入を想定しました。 その結果、システムの基準値まで熱量を上げる為、日本に供給されるLNGの大半にプロパンを混入させる必要が生じました。

熱量を下げる方法はいくつかあります。
1. 液化プラントで液体留分を分離します。メタンより沸点が高いエタン/プロパン/ブタンは、液化処理の間に自然に分離します。しかし、 LNGとは別にLPGも販売するのであれば、施設には配管/貯蔵/輸送の追加コストが必要となります。 プロパンとブタンは世界市場で活発に取引されていますが、エタンはそれほどでもありませんし、 LNGプラントの近隣に石油化学工場がなければ、LNG中に残留させることになります。つまり、 プロパンとブタンを抽出するLNGプラントでも、高熱量のLNG生産は可能なのです。カタールのラスラファンLNG(ラスガス) 及びカタールガス・プロジェクトにおいて、それぞれ最初の液化トレインは、高熱量ガスを要する日本/ 韓国市場に供給するための仕様で設計されました。そのため、LPGはLNG中に残留しています。現在建設中の新規トレインは英国/ 米国市場への供給用に設計されており、プロパン/ブタンを抽出して別途販売する施設も併せて設計されています。しかし、 エタンは英国の仕様に合わない為、LNGの中に残留させます。
2. 受入基地でLNGに窒素を注入します。カタールガスⅡプロジェクトからLNGを受け入れる為に建設中の英国South Hook基地には、窒素注入施設も造られています。液体窒素1立方メートル当たりの価格はLNG価格に相当するにも係わらず、 顧客にとっては窒素など何の価値もないため、贅沢なオプションと言えます。
3. 再ガス化されたLNGを、供給源の異なる低熱量ガスと混ぜ合わせます。例えば、米国のレイク・チャールズ基地は、メキシコ湾/ ルイジアナ州/テキサス州のガス田に賦存する大量の低熱量ガスにアクセス出来るルイジアナ州に位置しています。この地域には、 同基地の他にも液体留分を分離できるガス処理プラントが複数あります。その結果、レイク・ チャールズは様々な熱量のLNGを取引出来るのです。同基地はこれまで、熱量1,046-1,162Btu/ Scfのカーゴを受け入れてきています。コーブ・ポイント/エルバ・アイランド/ ボストン近郊のエバレットといった米国東海岸の基地は低熱量ガス及び液体抽出装置へのアクセスを擁していない為、 受け入れ可能なLNGの品質は厳しく制限されています。
4. 受入基地にエタン/プロパン/ブタンを抽出する分離装置を建てます。LNGが受入段階に至るまでには、既にガス生産/液化/ 輸送のコストが発生している為、再ガス化基地のコストはLNGチェーンの中で最高値となります。ですから、エタン/プロパン/ ブタン抽出による付加価値は最も低くなるのです。レイク・チャールズ基地は、液体留分分離施設を備えた数少ない基地の一つで、BGは最近、 基地の拡張に伴う同施設の能力拡張計画を発表しています。スペインのバルセロナ基地も、 リビアからの高熱量ガスを取引する為に液体留分分離施設を擁していましたが、現在それら施設は利用されていません。私の知る限り、 液体留分分離施設を併設しているのは前述の2基地のみです。ただし、インドのダヘジ基地では現在も検討されています。

Q6:LNG需要の推移についてお尋ねします。<グラフ1>で示された米国/英国の伸び率は私の予想を上回っています。 この要因をご説明いただけますか。欧州のLNG需要はパイプライン・ガスとの競争による影響を受け、 米国ではガス価格の上昇が需要を抑制すると考えますが、いかがでしょうか。
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A6:ありとあらゆる要因が大きく影響する可能性がある為、欧州や米国などの市場におけるLNG需要の予測は非常に不透明です。欧州/ 米国における輸入必要量は、需要と国内生産量の差であり、事実上2つの大きな数字の開きを意味します。 どちらかの数字に少しでも変化があれば、輸入必要量に不均衡が生じます。特に欧州における更なる不確実性の要因は、パイプライン・ ガスと競合する中でLNGが輸入量に占める割合です。
 相対価格もまた欧州/米国のLNG輸入量に影響を及ぼします。大量のパイプライン・ガスが欧州市場に(例えばロシアから) 供給され得るような場合、価格は低下します。最終的に米国のガス価格を下回れば、 生産者は米国市場向けにLNGを振り替えたいと考えるようになります。一方、もし欧州でガスが不足し、 それを受けて価格が米国価格を上回れば、LNGの流れは米国よりも欧州に向かうようになります。このことも、欧州/ 米国のLNG輸入量予測の不確実性を高めているのです。
 様々な不確実性を勘案すると、私と質問者の予測に隔たりがあるのは当然のことでしょう。
 米国のガス需要における主要な不確実性の一つがガスの高値であるという意見には賛成です。私は、 米国市場が価格に対しどれほど敏感に反応するかを長期的に捉えた優秀な分析を見たことがありません。 もし天然ガス価格が現在のレベルを維持し続けるようであれば、需要が崩壊することも考えられます。このような事例は既に発生しています。 例えば、ガス原料がより安価な国で生産されたアンモニアに対抗できず、米国のアンモニア・プラントが生産を中止した例があります。
 米国のガス消費インフラの大半は、ガス価格が2ドル/百万Btuだった頃に開発されました。現在ガス価格は10ドル/ 百万Btuを超えており、この高値が将来も持続するようであれば、消費パターンも、 安価なガスが存在した頃のパターンから大幅に変化することになるでしょう。 長期的需要に対する高値の影響がどれほど大きいかを単純に推定するのは難しいのですが、かなりの影響力を持つ可能性があり、 現在予測されているよりも低いレベルまでLNG輸入を減少させることもあり得るでしょう。(安)
(アンディ・フラワー  11月2-25日)

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