- 2005年12月21日
- ロシア産ガスとガスプロムの将来(上)
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今週から2週に亙って、オックスフォード・エネルギー研究所のガス研究所所長ジョナサン・ スターン氏による弊誌への書き下ろし原稿、「ロシア産ガスとガスプロムの将来」を紹介致します。同氏は、 今年10月にオックスフォード大学出版より「The Future of Russian Gas and Gazprom」を出版、 同著に基づき本稿を寄稿くださいました。
2001年は、ロシアのガス産業及びその支配的企業であるガスプロムの歴史にとって、重要な転換期であった。 アレクセイ・ミレル会長率いる同社の新経営陣が、旧経営陣(その多くはソビエト時代に任命された)に取って代わったのである。これは、 ガス産業におけるソビエト時代の終焉を物語るだけでなく、ロシア産ガスの供給/需要/取引の旧来のパターンに、 新たな時代が到来したことも意味していた。ロシア産ガス及びガスプロムの将来は、多くの面で過去と根本的に異なるであろう。本稿では、 この新しい未来に関する主要な変化のいくつかを取り上げていく。
供給と輸送
2000年代の始まりとともに、1991年以前に投資が行われたガス田や長距離ガス・ パイプラインを始めとするロシア連邦への「ソビエト時代からのガスの持参金」が、 その生産寿命の終焉を迎えつつあることが次第に明らかになった。ガスプロムは、その生産を3つのガス田(ウレンゴイ/ヤンブルグ/ メドベジェ・ガス田)に依存する状態から、ガス及び液体の開発がより複雑で費用も嵩む、 従来に比べ小規模且つ多数のガス田に依存する状態へと移行しつつあり、従って、輸送の選択肢も、より複雑で費用のかかるものとなっている。 高圧輸送パイプラインの優に20%以上は設計寿命である30年を超過しており、一方、ネットワークの60% 近くは建設から20年以上を経過している。ロシアのガス産業及びガスプロムの今後20年間における国内の主要任務は、 これらガス田を代替する生産能力の確保と、これに併せた西シベリア産ガスの国内/輸出市場への輸送を担う統一ガス供給システム(UGSS) の大規模改修である。2000年初めには、主要3ガス田における生産量減退の影響が、(超巨大な)ザポリャルノエ・ガス/ コンデンセート田で生産が開始されたことにより、明るみに出ることはなかった。ザポリャルノエ・ ガス田は2005年に1,000億立方メートル/年(LNG換算約7,000万トン/年)のプラトー生産に達している。1998- 2001年に落ち込んだガスプロムの生産量は、2000年代初頭に再び増大したのである。しかし、ザポリャルノエ・ ガス田の生産がピークに達するとともに、同社の生産量は横ばいとなり、2010年まではには、ことによると2006- 07年にも減少に転じると思われる。主要3ガス田では1999-2004年に、平均220億立方メートル/年(同約1,500万トン/年) 以上生産量が減退しており、ガスプロムは2004-20年に、合計約2,000億立方メートル/年(同約1億4,000万トン/年) を新たな生産能力で代替しなければならない。同社は確固たる資源基盤を有しており、また供給の選択肢も十分に確立していることから、 これは決して危機的という状況ではない。しかし、同社には特にヤマル半島からの供給を筆頭に、 新たな大規模供給の開始時期に関する明確な戦略を確立しなければならないという切迫性がある。
ヤマル半島開発の第1フェーズに必要な投資額200-250億ドル(約2兆4,000億-3兆円)は、 1990年代後半及び2000年代初頭の経済/政治環境では、確約することは不可能であった。2005年においてさえ、 ヤマル半島のガス田開発はガスプロムの緊急投資案件ではない。ガス田開発とパイプライン建設に必要な時間を鑑みると、 1,000億立方メートル/年の生産量確保は8年以内に実現できない。従って、 ヤマル半島の開発を2006年に開始する決定がなされたとしても、ボバネンコ・ガス田において1,000億立方メートル/ 年の生産が可能となるのは、最短でも2014年のこととなる。しかもこの予想は、同ガス田が遠隔地にあり、 環境保護の観点からも配慮を必要とする地域に位置するため遭遇すると思われる、ロジスティックス上の課題や環境問題を考えると、 非常に楽観的である。
同社が新規生産量の確保に十分な投資を怠ったと批判する人は、2000年代初頭に国内産ガスの価格が事実上急騰したにもかかわらず、 ヤマル半島のガスはロシアでの販売で利益を上げることができなかったこと、2005年の価格でも、或いは、 2010年の価格として予測されている1,000立方メートル当たり60ドル(約7,300円) であっても多分難しいであろうということを理解していない[註1]。このことは、 2000年代の生産を目指してはヤマル半島の開発を行わないとする同社の決定が、例え財政的制約に起因するものだったにせよ、 商業的な観点からは賢明であったことを証明している。しかし、この決定では、同社の将来的な供給「ロードマップ」は描けていない。
同社は、ヤマル半島において早急に大規模な開発を行う方向に進まない限り、望むと望まないに関わらず、以下に依存せざるを得ない。
・オビ/タズ湾の沖合ガス田を中心とした、NPT(ナディム・プル・タズ)地域に位置する、より多数且つ小規模なガス田。 同地域の近隣には既存のパイプライン網があり、約800億立方メートル/年(LNG換算約5,600万トン/年)の供給が可能と思われるが、 プラトー時の生産量を約10年程度しか維持できないガス田も多い。これらガス田の開発は、低コスト供給戦略の鍵を握り得る。
・ガスプロム以外のガス生産者による供給。インセンティブが十分与えられれば、その供給量は2004年の約900億立方メートル/年 (同約6,300万トン/年)というレベルから、2010年代初頭には1,500億立方メートル/年(同約1億トン/年)程まで、 そして価格が魅力的でアクセス条件が「妥当」なものであるという条件付ながら、2020年には2,000億立方メートル/ 年以上まで増大可能である。「独立系生産者」は多数存在するかの如く言及される傾向にあるが、 シベリア以西の市場へ販売するためのガス生産量を著しく増大させる能力があると思われる企業は、2005年現在、ルクオイル/ロスネフチ/ TNKBP/スルグトネフテガス/ノバテックの5社、或いはアイテラを含む5-6社しかない。
・中央アジア諸国からの輸入。同社は、トルクメニスタン/カザフスタン/ウズベキスタンと長期契約を締結しており、 2010年代初頭までに1,000億立方メートル/年超の輸入が可能であると予想される。
実際どのようになるかは、これら異なる選択肢に付随するコスト/スケジュール/安全性レベルに対する見方と、国内/独立国家共同体 (CIS)諸国/欧州諸国といった様々な市場におけるロシア産ガスの販売利益の2点に左右されるであろう。この利幅は逆に、 今後10年間にこれら諸国が支払いを厭わない、或いは支払うことが可能な価格次第で変動する。 独立系事業者によるガス生産及び中央アジアからの輸入が上述の規模で行われれば、 ガスプロムは今まで経験したことのないレベルまで同社以外の供給者に依存することになり、 これは同社の将来にとって大きな変化となるであろう。
需要と価格
1998-2005年の間に、ロシアの産業用ガス部門は膨大な損失を生む悪夢から、ガスプロムが規制された価格で販売を行い、 若干の利益を得られる事業へと変貌を遂げた。一般家庭への販売は、今後10年以内に利益を見込むことが可能である。 一般家庭への助成金を廃止し、長期限界費用に近付けるべく全顧客を対象に価格引き上げを行うだけでなく、(ロケーション/ 顧客需要プロフィールにおいて)よりコストを反映するためにも、規制価格の更なる改革が必要とされている。しかし、 貿易をさらに発展させつつ産業用価格(までも)を全面的に自由化することは、ガスプロムが生産・販売の両面において圧倒的な 「支配的プレーヤー」であり続ける限り困難であろう。ガス需要と価格弾力性に関する詳細なデータの欠如は、上昇する産業用価格が需要に与える影響を見積もることが、 非常に困難なことを意味している。産業用価格は、5年前と比べて実質2-3倍に上昇しており、期日に全額を現金で支払うよう要求されている。 従って、価格レベルと支払いを実行させるという観点では、2005年のガス産業は未知の領域にある。著しい保護/ 効率化政策が打ち出されることも予想され、需要は年率1-2%の割合で上昇し続けるとの従来の仮定が揺らぎかねない状況である。問題は、 老朽化した非能率的なプラントの構造的な改修と大規模な建て替えがいつ開始されるか分からないことある。その時期は、電力部門の改革と、 発電所の新たな所有者が高エネルギー効率の新規プラントへ大規模投資を行うのに十分な自信を自らの所有権に持つかどうかによって決まる、 という点が重要である。いずれにせよ、国内市場での販売は、ガスプロムにとっても独立系生産者にとっても収益の上がる事業となっており、 今後更に収益性が向上する見込みである。これは将来、著しい変化となり、更にガスプロムが3,000億立方メートル/年 (LNG換算約2億トン/年)に迫る販売量を達成すれば、財政面でも顕著な結果が現れるであろう。
改革と再編
ガスプロムは、ロシア産ガスの生産/販売において、 当面の間支配的プレーヤーであり続けると思われる。しかし、ガス部門では改革が既に始まっており、あらゆる兆候がその継続を示唆している。 価格を巡る改革の進展は、前述の通りである。パイプライン網へのアクセスという点では、2004年に同社は約1,120億立方メートル/年 (同約8,000万トン/年)近くのガスを35の荷主に代わって輸送したが、このうち500億立方メートル/年(同約3,500万トン/年) 以上は、CIS諸国を(主な)輸送先とする中央アジア産のガスであった。残る620億立方メートル/年(同約4,400万トン/年) の大半は少数の荷主によるものであったと思われるものの、これはかなりの進歩である。それでも、パイプライン網への非差別的アクセスや、 コストを反映した輸送料金システムの進展という点において、大いに改善の余地がある。2005年の改革の環境は、 ガスプロム以外の生産者は石油企業も独立系ガス会社も、ガスプロムの経営陣(及びロシア政府)と摩擦を引き起こさない限りにおいて、 また後者が定める役割の範囲内において、見渡せる将来における欧州への輸出こそ含まれていないものの、発展可能というものであった。これは、 独立系生産者をロシア連邦独占禁止当局が名付けたガスプロムの「隷属的地位」というポジションに、 永久に追いやるものではないかも知れないが、独立系生産者が独立した商業事業体として、非差別的なサード・パーティー・アクセス(TPA) の制度に則って操業できることを意味するものでもない。2004年にガスプロム以外の企業は、ロシア国内のガス生産量の約14%を占め、ガス販売においても同様の数値を残した。 これらガスプロム以外のプレーヤーが市場シェアを拡大するスピードは、以下要素の発展によって決まると思われる。
・規制価格
・輸送料金とパイプライン網へのアクセスに関する、透明性が高く法的強制力のある規制制度。同制度が存在しない場合には、 他の供給者にガス田開発と市場へのガス輸送を奨励することについてのガスプロムの関心。
・ガスプロムが、中央アジアから価格競争力の高い供給をどの程度調達できるか (ガスプロムが入手するこうしたガスの量が多ければ多いほど、独立系からのガス供給は不要になる)。
ガスプロムは、直接支配の及ぶ供給について開発を遅らせる限り、他のロシアの生産者への依存を必要とし、 こうした生産者のロシア国内市場におけるシェアは益々増大すると思われる。ガスプロムとロシア政府の両者とも、 この見通しに比較的満足している模様で、これは市場改革にとって好材料となるであろう。改革に関してそれほど好材料とは言えないのは、 非ガスプロム系生産者による生産量は著しく増加したものの、これら生産者の市場へのアクセスが阻まれ、井戸元にて規制された価格 (から輸送料を差し引いた価格)でガスプロムへのガス販売が強いられたという事態であろう。
プロジェクトの進展において予測が最も困難なことの一つに、ガスプロムの構造改革がどこまで、 またどの程度の速度で進むのかという点がある。生産/輸送/貯蔵/その他の活動にそれぞれ独立した子会社を設立すること (法的アンバンドリング:事業分割)については、2005年にかなりの進展が見られた。同社の分割(所有権のアンバンドリング) は政治的に許容されず、これは第2期プーチン政権後でさえ変わることはないと思われる。2000年代に入り、国内/ 海外市場からの収益が著しく増大している中で、ガスプロムの改革が遅々として進まないことと原価管理が行われていないことについて、 グレフ経済発展貿易相は明らかな苛立ちを示していた。しかし、ガスプロムによる石油/ 電力資産の獲得でエネルギー部門の併合が進展することへの反対と、 ガス部門改革の遅延に対する苛立ちの両方を継続的に表明した唯一の有力な政府機関は同省であった。
しかし、こうした問題点があり、またガスプロムが依然として支配的であるとはいうものの、 「ロシアのガス部門は全く改革されていない」と主張するのは完全に誤りである。ガスプロムの事業形態/財務会計/透明性は、 著しく改善された。規制機関が監督するパイプライン網へのTPAがあり、独立系生産者から国内の顧客へ相当な量の供給が行われている。 しかし、ロシアの国境を越えるとパイプライン網へのアクセス権が疑わしくなり、 更にCIS諸国への国境を越えると全く存在しなくなってしまう。
[註1]収益性は、ヤマル半島産ガスについて定められる税制に著しく依存する。
(ジョナサン・スターン)
