- 2005年12月28日
- ロシア産ガスとガスプロムの将来(下)
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今週も先週に引続き、オックスフォード・エネルギー研究所のガス研究所所長ジョナサン・ スターン氏による寄稿論文を掲載致します。
輸出:パイプラインとLNG
ガスプロムの経営陣、ロシア政府、そして大統領は、予見できる将来において、引き続きガスプロムが欧州向けの 「唯一の輸出チャネル」であり続ける意向を明らかにしている。アジアへのパイプライン・ガスの輸出においても同様の政策が、 実際の輸出開始以前に十分な時間的余裕を持って既に策定されている。独立国家共同体(CIS)諸国
ガスプロムは、 1990年代後半から2000年代初頭にかけてCIS諸国向けロシア産ガスに関する管理機能の大半を放棄していたが、 2005年までに全面的にその機能を回復した。特にロシア産ガスのウクライナ/ベラルーシ/モルドバへの輸出は、これらの国々にとっても、 また、欧州への中継と絡んで極めて重要なものとなろう。ガスプロムは2000年代半ばから後半にかけて、約900億立方メートル/年 (LNG換算約6,300万トン/年)のガスをCIS諸国へ供給する契約を締結しており、そのうち600億立方メートル/年 (同約4,200万トン/年)はウクライナへ(その半分以上はトルクメニスタンから再輸出されるべきものである)、 また最大200億立方メートル/年(同約1,400万トン/年)はベラルーシへ供給されることになっている。欧州
少なくとも今後20年間、或は恐らくそれ以上の長い期間に亙り、欧州は販売量/ 売上に関してロシア産ガスの主要な輸出市場であり続けると思われる。下表は、ロシアから欧州への輸出量が2002年以降急増し、 その増加分全てを西欧への輸出が占めていることを示している[註1]。2000年代半ばには、 トルコを含む欧州諸国への輸出容量は約1,900億立方メートル/年(同約1億3,000万トン/年)であった。 ウクライナにおけるパイプライン網の改修により、400億立方メートル/年(同約2,800万トン/年)が上乗せされる可能性がある。 北欧ガス・パイプライン(NEGP:ヴィボルグ港からバルト海を経由してドイツのグライフスバルトに至る)によって、 更に275億立方メートル/年(同約2,000万トン/年)の輸送容量(最終的にはこの2倍の容量)が追加されることになる。しかし、 ウクライナ及びベラルーシ(そして程度はそれほどでもないがモルドバ) との中継に関する難題の解決が引き続き不可欠であることに変わりはなく、NEGPはこの状況を変えるものではない。
2010年までにNEGPを完成するというガスプロムが表明した計画は遅延する可能性があるが、英バクトン~ベルギー・ ジーブルージュ間を繋ぐインターコネクター・パイプラインの拡張と、オランダBalgzand~英国バクトン間の新規ガス・パイプライン (BBL)が共に2006年末までの完工を予定しており、これらのパイプラインを通じた輸送が可能なため、ロシア産ガスのベルギー/ 英国への追加分の販売に影響はないであろう。これら市場への販売は、ロシア産ガス輸出の将来について、また別の一面を明示する。つまり、 ガスプロムが、石油価格にリンクした従来の長期契約と並行して、 ガス指標に基づいて価格決定が行われる短期契約の役割を見い出そうとしていることが確認されるのである。しかし、特に英国など、 より遠隔な欧州市場への供給にはコストが嵩むため、価格に極めて敏感となり、2003-05年レベルから著しく下落するなら、 比較的素早く販売が姿を消すかも知れないことを意味している。今後10年間におけるロシア産ガスの欧州市場への販売は、著しい不透明性を孕んでいる。この不透明性は、 長く待ち望まれてきたガス対ガスの競争の発展と価格設定に関するもので、自由化の結果として期待されるものだが、 欧州大陸へは未だに大きな影響を与えていないのである。2000年代後半の需要に対する供給余剰の増加と、欧州連合(EU)の改正電力/ ガス統一指令の施行、そしてエネルギー部門の競争に関するEUの調査によって、ガス対ガスの競争が生じ、 欧州のガス価格が長期に亙り押し下げられるかも知れない。これは、その時期に操業を開始する可能性のあるNEGP等のプロジェクトに、 重大な商業的な課題を投げかけると思われる。一方で、欧州において今後もガス価格が(特に2003-05年レベルの) 石油価格に連動したまま、ガス対ガスの競争が現実のものにならなければ、 新規インフラ設備を介した追加的な販売は引き続き魅力あるものとなるであろう。しかし、より高い(石油に連動した)価格環境において、 ガス需要が増大し、ひいてはロシアによる輸出量が増大する見通しは、著しく低下すると思われる。
アジア
ガスプロムは、東シベリアとロシア極東地域にてガス田や計画中のプロジェクトに殆ど権益を所有していないにもかかわらず、 大統領命令により2002年に、国内/輸出用を問わずこれら地域内のあらゆるパイプライン・ガス開発のコーディネーター役に任命された。 サハリンⅡプロジェクトから日本/韓国/メキシコ西岸へのロシア産LNGの供給は、2008年に開始される予定である。 同社は長期に亙る交渉の末、2005年にようやく同プロジェクトの権益25%を取得することに合意した[註2]。 ロシア産LNG及びパイプライン・ガスのアジアへの供給拡大を目的とするプロジェクトは枚挙に暇がないが、 そうしたプロジェクトが実際に具体化するのか、そしてそれがいかに早く行われるかは不明である。中国と韓国は、ロシア産ガスのパイプラインによる輸出市場となる可能性が最も高く、特に中国は重要と見られる。しかし、 2005年の中国の関心は、国内産ガスのみを利用する東西パイプラインの輸送能力拡張と、 LNG輸入用に最大11ヵ所の再ガス化基地を東海岸に建設することに注がれ、パイプライン・ ガスの将来的な開発については合意を見ていない印象である。中国はあらゆる入手可能なエネルギー供給をできる限り多量、 且つ早急に輸入しようと「懸命」であるという2000年代半ばに一般的であった見解とは対照的に、ガスに関する限り、 企業や政府の行動にそうした認識を裏付ける根拠は殆どない。
これはガスプロムにとって、中国石油天然ガス集団公司(CNPC)との排他的な交渉関係と、潜在的なパイプライン・ガス・ プロジェクトにおけるロシアの様々な権益保有者に対する自らの権力を強化させるにあたり、有利に働いたかも知れない。パイプライン・ガスは (北朝鮮を経由国としない限り)いずれも中国を通過することが必要である可能性が高いため、これは韓国にとって有利ではないかも知れないが、 しかし、韓国ガス公社(KOGAS)の民営化とガス業界の自由化及び再編は依然として不透明であり、今後更なる時間を要するかも知れない。 これを、需要の不透明性とロシア産ガスへの政治的嫌悪の双方に関連する理由で、サハリン産LNGの大量輸入はもとより、 (サハリンⅠプロジェクトのパートナー企業が提案しているような)より多量なパイプライン・ ガスの輸入にも乗り気ではないという日本の状況から考察すると、 ロシア産ガスがアジアへ輸出される見通しは一般的に考えられているよりもっと先のことになると思われる。
現在検討されているパイプライン・プロジェクトは、いずれも交渉と建設に10年を要することから、 交渉が2000年代後半までに完了できたと仮定した場合でも、相当量のパイプライン・ ガスがアジアへ輸出される時期としては2020年の可能性が最も高いようである。こうした交渉では、ロシア/中国/ 韓国という全ての関係国が事業形態や国内政治問題を解決することが必須である。2000年代半ばの時点で、これらの問題は未解決か、 或いは互いの摩擦を引き起こしている。ロシア政府とガスプロムに関して2000年代に明確となったのは、ロシアの資源所有者は、 輸出市場に関して自ら交渉を行う自立性を有すると考えてはならないことである。所有資源は、いずれ域内の全主要ガス田を結合する 「中央のガス幹線」へ供給されるもので、西シベリアとロシア西部を網羅する統一ガス・ネットワーク(Unified Gas Network)に連結されるものと考えるべきなのである[註3]。また、所有するガスは、 ガスプロムの輸出部門であるGazpromexportが彼らに代わって中国や韓国の買主と交渉を行う「統合された輸出チャネル」 の一部となることも認識すべきである。これらガス田やプロジェクトの中にはガスプロムが権益を所有しないものもあることから、 これは非常に困難な問題を引き起こすであろう。2030年までのアジアへの輸出量を僅か300億立方メートル/年 (LNG換算約2,000万トン/年)とする国際エネルギー機関(IEA)の予測は、 今後25年間に建設が行われる主要なパイプラインが1プロジェクトに過ぎないことを示唆している[註4]。 これは比較的慎重な予測であるものの、2005年についてはプロジェクトの複雑性と、 主要プレーヤーにそれらプロジェクトを進展させるための切迫性が相対的に欠如していることを如実に反映していた。
北米
LNG輸出開発計画は2005年現在、未だ極めて初期段階にあるものの、ガスプロムにとって輸出計画の最重要事項であった。 同社が第一の目標とする市場は、北米の東海岸及びメキシコ湾岸であり、主にシュトコマノフスコエ・ガス/コンデンセート田産のガスを、 ムルマンスクに建設する液化基地を経由して輸送しようとしている。同社にとって初となるLNGプロジェクトのパートナーは、 ノルウェーのスタットオイル/同ノルスク・ハイドロ/仏トタール/米シェブロン/同コノコフィリップスの5社から選定され、 2010年代初頭に供給を開始すべく合弁会社に参加することになる。同プロジェクトほど知られていないが興味深いのは、 液化基地をサンクトペテルブルグに近いウスティ・ルーガ(Ust Luga)に建設するという同社の計画である。同基地は、 NEGPに取って代わり北米へのガス輸出を行うもので、同社は同プロジェクトの見通しを調査すべくペトロカナダと基本合意書(MOU) を締結している。シュトコマノフスコエ・ガス田からムルマンスク経由で輸出するプロジェクトは、液化能力1,000-1,500万トン/ 年という非常に大規模な液化基地の建設を予定しているのに対し、ウスティ・ルーガに建設する基地の液化能力は、比較的小規模な200- 350万トン/年になるものと思われる。こうした活気溢れる展望の数々にもかかわらず、ガスプロムのアジア及び北米へのパイプライン・ガス/LNG輸出の選択肢は、 少なくとも2020年代後半まで、現在の欧州への輸出レベルと比較してそれほど大きな割合を占めることはできない。しかし、 ロシア及びガスプロムのガス輸出の視野は、2005年までに欧州へのパイプライン輸出の域を越えて大幅に開けた。 これはロシア産ガスの将来にとって非常に大きな変化となり、それは2020年代以降特に顕著となろう。
ガスプロム:複雑な選択肢と課題
国内ガス市場及び輸出入取引における選択肢や課題の複雑性は、ガスプロムにとって手強いものである。ガスプロム(とロシア政府) が戦略的優先順位を決定する必要性は明らかで、且つ急を要するものであり、また、国内/輸出プロジェクトの中には、 素晴らしい機会であると同時に重大なリスクを伴うものもあり、それが著しい障害となることも考えられる。 ガスプロムが2005年9月末に石油会社シブネフチの過半数株式を買収したと発表したことは、これを更に複雑にさせるものである。 同買収により、ガスプロムの石油生産量は(既存の石油権益と合わせて)約100万バーレル/日となる見込みである。欧州への非常に大規模なガス輸出と、開発が進められている北米へのLNG輸出プロジェクト、アジア諸国へのLNG/パイプライン・ ガス輸出の野心、そしてもちろんその他多くの国々への幅広い潜在的投資によって、ガスプロムが強固な多国籍ガス企業、或いは「グローバル」 ガス企業とさえ呼ばれるに相応しい企業に成長していることは明白である。鍵を握るのは、こうした国際規模での野心が、巨大なガス輸送網 (と重要な配給網)を持って、また国内顧客へガス供給を行う社会的責任を果たすという、同社のロシア(旧ソビエト) におけるガス事業者としての過去の遺産と今後もうまく共存していけるかという点である。国内におけるガスの輸送/ 配給網及び販売管理に必要な構想と手腕は、ガスと石油両方のグローバルな事業どころか、「グローバルなガス事業」 を展開するために必要なそれとは著しく異なる。そして、これら二つの役割の矛盾は、 ロシアのガス産業における改革や再編成を次なる主要な段階へと導く糸口を提供するかも知れない。
[註1]同表によれば、2004年の東欧によるロシア産ガスの輸入量は1995年より減少しており、 バルト諸国への供給は僅かに増加しているだけである。
[註2]サハリンⅡプロジェクトの権益保有者との間で合意に達したものの、 シェルが同プロジェクトに保有する権益とガスプロムが保有するザポリャルノエ・ガス/コンデンセート田の下層部(ネオコミアン層) の資産の実際のスワップは、2006年半ばまで確定しないかも知れない。
[註3]著者は、東シベリアのガス田を西シベリア及びロシア西部のガス田とリンクさせる構想について、 ロジスティックス的には可能だが商業的には全く非現実的だと考える。
[註4]IEA、「世界エネルギー予測2004年版」、p.313。
(ジョナサン・スターン)
