ダイアモンド・ガス・オペレーション株式会社


賢人達の視点

2006年02月22日
インドのガス市場、その現状と見通し(上)

  今週から3週に亘り、CRISIL Infrastructure Advisory[註1] による弊誌への書き下ろし原稿「インドのガス市場、その現状と見通し」を翻訳の上、掲載します。

[註1]CRISIL Infrastructure Advisory(CRISIL)
 CRISILは、インドのインフラストラクチャー(基盤設備)部門における代表的なコンサルティング会社であり、エネルギー/通信/輸送/ 都市基盤設備/観光/企業向けサービスを専門としている。同社は、改革に向けた政策策定、機関設立、民間・公的企業のパートナーシップ構築、 複数国が融資するプロジェクトにおける国際的なパートナーとの間の事前調査、中央/州政府の国営企業民営化の動きを支援している。 長年培ったインド中央/州政府との関係に基づき、同社は、提案中のプロジェクトに関し、行政側の要求、規制/政策の在り方、 政府の開発優先策を分析することで、プロジェクトのリスク緩和、成功への確率向上に寄与している。
 CRISILの石油/ガス部門では、インドの石油/ガス部門に携わる全ての主要な関係者に対し、LNG購入、天然ガス市場開発、参入戦略、 契約策定/交渉、ガス価格設定/規制に関してのアドバイスを提供している。
 尚、同社に関する詳細な情報は、同社ホームページ(
www.crisil.com) より入手できる。

序論
  天然ガスは、従来石炭が圧倒的な割合を占めていたインドの燃料ミックスの中で、着実に地位を確立しつつある。 過去数十年間に亘り15%以上の年間平均成長率(CAGR)を記録し、インドの主要燃料の中でも最速の成長を遂げた。これはひとえに、 国内資源の生産的活用に焦点を絞った結果である。
 特有の利点を持つ天然ガスは、現在ますます、その他の化石燃料よりも好ましい選択肢になりつつある。インドは、LNGという形で、 或いは輸送パイプラインを通じての輸入を確保すると同時に、天然ガスの国内生産を強化するべく複数のイニシアチブを開始した。
 本稿では、インドの天然ガス産業の概要、将来のガス需要に対応する為に同国で行われているイニシアチブを含む主要マーケット開発、 及び計画段階の主要プロジェクトの詳細を、3章に分けて説明する。

1. インドの天然ガス市場 - 既存市場の構造
 インドの天然ガス産業は、 商業的な意義のある資源(ボンベイ・ハイ・ガス田)が初めて発見されてから30年も経っていない比較的若い産業である。ボンベイ・ハイ・ ガス田の発見に続き、インド西部及び南部において同ガス田より規模の小さい陸上/沖合資源が発見された。 このような資源の発見が国中の注目を集め、天然ガス産業を段階的な発展へと導いた。天然ガスが発見されるまでのインドは、 国内エネルギー需要に応える為、石炭と輸入石油に大きく依存していた[註2]。インド経済は農業の占める割合が高いため、 これら2種類の主要燃料に頼ることが可能であった。
 その結果、商業的資源の発見以降最初の10年間に亘り、インドの天然ガス産業の発展はいくぶん緩やかであった。同産業は、 概して国営の公的企業(Public Sector Undertaking: PSU)によって支配されており、天然ガスの生産/ 輸送の大半を、国営石油・ガス会社が行なっていた。当初発見済み資源の位置が限定されていたことを考慮し、国営石油天然ガス会社(ONGC) や国営石油会社オイル・インディア(OIL)など、資源に地理的に近い国営の探鉱/生産(E&P) 企業によって小規模な地域ネットワークが開発された。
 1984年の国営ガス会社(GAIL)設立により、インドの天然ガス産業は初めて本格的な推進力を得た。GAILは、 同国の天然ガス下流部門における全ての活動を担当する為に設立された。第一段階として、 ONGCとOILは地方パイプライン網の大半をGAILに移譲。沖合パイプライン網の所有権はONGCが維持した。 GAIL設立の最も特筆すべき効果は、インド初、そして今日に至るまで唯一の州際ガス網である、 ハジラ~ビジャイプール~ジャグディシュプール(HBJ)パイプラインの開発である。
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 しかし1991年の経済自由化以降、バリュー・チェーンのあらゆる部分において、国内/海外の民間企業の参入が大幅に増加してきている。
 HBJパイプラインの開発、及び民間企業の参入が、インドの天然ガス産業が成長するきっかけとなった。取扱量の点では、 2004年にインドで消費された天然ガスは321億立方メートル/年(LNG換算約2,300万トン/年)で、 一人当たりでは1,020立方フィート/年(同約0.02トン/年)に過ぎず、世界平均の1万2,800立方フィート/年(同0.24トン/ 年)と比較しても低い数字である。

需要分析
 インドでは、天然ガスは主に発電事業や肥料製造業などの大規模産業によって消費されている。コンバインドサイクル・ガスタービン (CCGT)技術を採用した発電所は発電燃料として天然ガスを利用し、肥料/海綿鉄/石油化学製品の工場では原材料として利用している。
 こうした大規模産業の他、硝子工業や窯業のような産業でも天然ガスは使用されている。 天然ガスが一般家庭や産業設備の暖房に幅広く利用されている欧米諸国とは異なり、 熱帯性気候のインドでは暖房用にガスを用いる ことはない。このことは、<図2>が示す天然ガスの消費分析にはっきりと表れている。
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 当初は、肥料製造業が最大のガス消費者だった。しかし90年代中盤以降は、ガスによる発電が大々的に行われるようになり、それと同時に、 ガスを利用しない肥料製造が増えた。その結果、電力部門は今やインド最大の天然ガス消費者となり、消費量全体の40%を占めている。
 天然ガスの消費量は健全な成長率で増加しているが、限られた国内供給が市場の成長を妨げている。天然ガス消費量の成長率は、 実に過去3年の間に年率3%まで下がってしまった。

供給分析
 <図1>が示すように、 国内生産量の大半がインド西部の沖合ガス田で産出されている。この地域の生産量は、 沖合ガス田から程近いグジャラート州の陸上ガス田の生産量と合わせ、国全体のガス生産量のほぼ4分の3を占める。西部の沖合ガス田以外では、 南部(タミールナドゥ州/アンドラプラデシュ州)の沖合ガス田、及びグジャラート州や北東部の複数州に位置する陸上ガス田にて、 小規模なガス生産が行われている。
 上流部門の参画企業としては、国営企業のONGCとOILが支配的な地位にある。両社の合計生産量は国内生産の約80%を、 民間企業と合弁会社[註3]が操業するガス田からの生産量が残る20%を占める。<図3>には、イ ンドにおける天然ガス国内生産量の移り変わりを示した。
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 CRISILの概算では、現在の供給レベルは市場の需要を60%程度しか満たしていない。これは大きなギャップであり、 主な原因は国内生産能力の限界にある。消費者側は、消費量を削減して操業するか、割高な代替燃料(主にナフサ、燃料油、低硫黄ディーゼル) で不足を補填することを余儀なくされている。
 2004年まで、インドの天然ガス市場は完全に国内生産で賄われていた。しかし同年3月には、ペトロネットLNG(PLL) がカタールから初カーゴを受け入れ、インド市場に輸入ガスをもたらした。また2005年には、 シェルがグジャラート州ハジラに生産能力250万トン/年のLNG受入基地の開業に成功している。
 
規制システム
 現時点では、インドの天然ガス産業を規制する包括的な規定は存在しない。インド石油/天然ガス省 (MoPNG)が、 必要に応じて策定した規定によって石油・ガス部門を統制している。とは言え、石油・ガス産業はしっかりと管理されており、決議の大半には、 以下に挙げる4つの補助機関を持つ同省の承認が必要である:
* 炭化水素資源総局(Directorate General of Hydrocarbons:DGH)
* 石油産業開発審議会(Oil Industry Development Board:OIDB)
* 閣僚間ガス関連委員会(An Inter-ministerial Gas Linkage Committee:GLC) 様々な産業向けに天然ガスの割り当てを支援していたが、最近解散した
* 石油計画/分析組織(Petroleum Planning and Analysis Cell:PPAC)石油・ ガス部門規制の為に、分析を管理し、データ支援活動を行う
 MoPNGは現在、責務の遂行に際し、以下インド憲法による法体制に支えられている:インド石油法(1934年)、石油規制・開発法 (1948年)、石油/天然ガス規定(1959年)、石油規定(1976年)、石油・鉱物・パイプライン(土地使用権の取得)法 (1962年)

上流部門における規制
 インドにおける石油・ガス産業が始まって以来、 同国政府は上流部門に民間投資を呼び込もうと努めてきた。当初は、 潜在的な投資家に提示された条件があまり魅力的ではなかったことが主な原因で、同取り組みは成功しなかった。しかし1998年になると、 市場参入者からのフィードバックを基に、政府は大幅に魅力を増した条件を盛り込んだ新探鉱認可政策(NELP)を打ち出した。 NELPの主な特徴は以下の2点である:
* 参画企業は、NELP鉱区において発見した石油・ガスを、国内市場で自由に販売することが出来る
* E&P部門はインフラとしての地位を与えられ、同部門に属する企業は生産開始から7年間に亘り所得税を免除される
 これら有利な条件により、NELPは大きな成果を収めた。NELPを打ち出して以来、5回の入札を実施した政府は、 国内及び国際企業に対して計110鉱区の権益を付与しており、権益を獲得した企業は、鉱区の探鉱/開発に多額の投資を行ってきた。 こうした投資が実り、過去数年の間に複数の商業的価値のある発見がなされた。発見された主な資源については、 後続部門が詳細の話し合いを行った。

中流/下流部門における規制
 段階的な天然ガス産業の発展と共に、MoPNGは、天然ガスの販売/輸送/価格決定といった下流部門活動を管理する規制を策定してきた。 同省は、ONGC/OIL/合弁会社が既存ガス田で生産する天然ガスを「規制ガス」と呼び、その販売及び価格決定を管理する。現在進行中、 或いは今後行われる予定の、民間企業が保有するNELPガス田や新規ガス田での天然ガス生産、再ガス化されたLNG、コールベッド・メタン (CBM)など他資源を原料とするガス、及びパイプラインで輸入されたガスは、MoPNGによる規制の対象外となっている。

それぞれの販売/輸送/価格決定に関する規定の詳細は下記の通り:

天然ガスの販売
 現在の規定では、規制下にあるガスはGAILに割り当てられている。 GAILは規制ガスを最終消費者に販売し、輸送サービスも提供する。非規制ガスの販売は、個別の生産者が行う。しかし上記に述べた通り、 ONGCとOILがガス生産の大半を占めているため、GAILがインド国内最大の販売業者である。

天然ガスの輸送
 これまでは、規制ガス/非規制ガスのどちらに関しても、輸送を規制する方針は存在せず、 MoPNGに事前申請を行った上で輸送活動を実施してきた。国営企業及び合弁会社の沖合ガス田の場合、 沖合から処理施設へのガス輸送は各生産企業が担当し、処理施設から市場への下流部門輸送はGAILやグジャラート州ペトロネット社 (GSPL)のような民間のオペレーターが担当する。陸上ガス田の場合は、処理施設からの下流部門輸送は、 GAIL及びその他の輸送オペレーターが取り扱う。
 インド国内の既存パイプライン網においては、そのパイプラインを保有する企業が自社の為に輸送能力を使用することが殆どである。 現時点では、GAILのHBJパイプラインのみが、交渉による長期契約に基づきサード・パーティーの為の輸送を行っている。
 
天然ガスの価格決定
 天然ガス産業が発展してきた数十年の間に、 GAILが販売するガスの価格決定に適用される規制の枠組みもまた変化を遂げた(図4参照)。
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  天然ガスは現在、T L サンカル委員会の提案に基づき、 規制天然ガスの価格決定基準を見直す目的で1995年1月に設定された価格で販売されている。委員会は、 ガスの陸揚げ価格を段階的に燃料油/低硫黄ディーゼルの国際価格にリンクさせることを提案した。この提案に従い、 消費者価格と呼ばれる陸揚げ価格は四半期ごとに決められることとなり、 規定の国際原油バスケット価格を基にした基準価格にリンクされた。リンク率は、1997-98年には55%、1998- 99年には65%、1999-2000年には75%だった。政府は、特定の石油製品バスケットについて2001- 02年を目処に100%のパリティ達成を目指したが、委員会の提案受入に際し、価格の大きな変動を抑制する目的で、 算出される消費者価格に2,150ルピー(約6,000円)/1,000立方メートル(1.20ドル/百万Btu) の下限と2,850ルピー(約8,000円)/1,000立方メートル(1.60ドル/百万Btu)の上限を設定した。 政府は昨年前半、電力事業/肥料製造業/都市での配給など優先分野向けのガス価格を3,200ルピー(約9,000円)/ 1,000立方メートル(1.79ドル/百万Btu)に、その他の消費者向けの価格を3.86ドル/百万Btuに改定した。
 要約すると、インドには、小規模ながらも発展しつつある天然ガス産業が存在する。ガス市場は、 今や30年に亘るその歴史の中で最も興味深い段階にある。次章では、近い将来起こり得る市場の発展について論じると共に、 その発展が産業に与え得る影響を割り出すことにする。

<その他の化石燃料と比較した天然ガス>
 天然ガスは本来、 石炭や石油等その他の化石燃料と比較して、よりクリーンな燃料である。しかし、漠然とした環境保全上の利点だけでなく、 明確な経済的メリットを提供できない限り、天然ガスは消費者には受け入れられない。<図5>では、 様々な使用部門ごとに見た天然ガスの代替燃料を紹介する。
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 代替燃料の中でも、ナフサのような石油製品に対して、特有の原油価格へのリンクがある天然ガスが競争力を持ち得ることは明らかである。 一方で、歴史的に低水準の価格がつけられている国産石炭にガスが対抗するのは難しいかもしれない。
 原油や石油製品と比較したときに明確な天然ガスの経済的優位性は、インドの「エネルギー安全保障」総合政策という背景から見ると、 更に重要になってくる。天然ガスの埋蔵量が枯渇するよりずっと前に原油の埋蔵量が底を突くため、 天然ガスは既に重要且つ主要な燃料と認識されている。また、天然ガスの大半はLNGの形で売買されている。 LNG産業が発展段階の途中にあることから、インドがこの市場で重要な地位を確立する可能性もある。CRISILは、 これら全てを考え合わせ、天然ガスは今後インド市場において更に大きな役割を担っていくと予測している。
 石炭については、近年、国内石炭供給が厳しい状況にあることから、天然ガスの利用に更なる焦点が集まっている。専門家によると、 石炭産業に十分な投資が行われない限り、少なくとも短期的に、あるいはそれよりも長期に亘りこの状況は続くと見られる。このような背景から、 特に電力事業のような石炭の主要消費者にとって、天然ガスは有力な代替燃料として浮上してくると見られる。
 従って天然ガスは、その他の化石燃料に対する経済的、環境的、及び戦略的な優位性を背景に、重要な役割を果たすようになると予測される。

[註2]インドの石炭埋蔵量は約924億4,500万トンと見積もられ、世界第4位の石炭保有量を誇る。現在、 同国の石炭生産量は4億300万トン/年である。
[註3]インドでは現在、パンナ/ムクタ、タプティ、及びラッヴァの3合弁会社が営業活動を行っている。 前者2社はアラビア海の大規模沖合ガス田で、後者はベンガル湾の沖合ガス田で、それぞれ活動している。(安)
(CRISIL Infrastructure Advisory)

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