ダイアモンド・ガス・オペレーション株式会社


賢人達の視点

2006年03月01日
インドのガス市場、その現状と見通し(中)

  今週も先週に引続き、印Crisil Infrastructure Advisory (CRISIL)による弊誌への書き下ろし原稿「インドのガス市場、その現状と見通し」を掲載します。

2.市場の発展
  CRISILはインドのガス市場においていくつかの重大な発展を確認した。この章では、市場の上流/中流/ 下流部門における重要な発展について論じる。

上流部門の発展
  インドの将来性に対する理解の深まりと、 インド政府によるイニシアチブが相まって、同国上流部門は近年、活況を呈している。
・ 最も重要な発展は、新探鉱許可方針(NELP)に基づく入札の実施と、その結果、民間企業による上流部門への参画が増加したことである。 この入札で権益を取得した複数のオペレーターが最近、大規模なガス資源の発見を発表しているが、これは入札が成功したことの証である。 中でも印石油企業リライアンス・インダストリーズ(RIL)による、インド南部でのガス発見の発表は特筆に価する。 南部及び周辺地域でガスが発見されたとの複数の発表がこれに続いた。こうした発見により、 国内のガス生産量は将来的に増加すると予想されているが、これは今後減少すると見られている既存ガス田からの生産を償うものである。
・ 新たに発見されたガスが追加分となって市場に供給される一方で、既存の国内ガス田からの生産量は、 今後10年間で確実に減少すると予想されている。長期ガス統計(LTGP *)によれば、既存の国内ガス田からの生産量は、年平均約13% の割合で減少する。その結果、国内ガス総生産に占める規制下のガスの割合は大幅に減少する見通しである。現行の天然ガス販売・ 価格設定システムがインド石油/天然ガス省(MoPNG)の規制によって管理されていることから、この見通しは大きな意味を持つ。 MoPNGによる規制では、国内資源からの新規供給は市場のファンダメンタルズに基づいた価格設定の対象となる。
・ 最近発表された発見の重要な特徴は、ガス資源がインド西部に賦存していないという点である。こうした資源の多くは南部に位置しており、 このことが南部における新市場の開発につながると見られる。発見された資源は比較的大規模であるため、 南部の市場が全量を吸収することは難しい。このため今後、既存の北部/西部市場と新規南部市場の大規模な統合が起こると予想される。
(*)LTPGは、インド国営石油天然ガス会社(ONGC)が保有する既存ガス田から2016-17年に供給される量に関する、 インド炭化水素資源総局(DGH)による予測である。

中流市場の発展
 国内資源の開発に加え、 インドは輸入ガスの確保にも積極的に取り組んでいる。同国の地理的位置は、西部(中東からのLNG或いはパイプライン・ガス)/東部 (マレーシア/インドネシアからのLNG及びミャンマーからのパイプライン・ガス) からの供給にアクセスする上で極めて恵まれた地理的条件を有している。
・インドには、既存のLNG受入基地が2ヵ所(ペトロネットLNG:PLLのダヘジ基地とシェルのハジラ基地)あり、更にマハラシュトラ州 (ダボール・パワー・プロジェクトの一部)でも基地建設が進行中である。同国では今後数年以内に、 南部で複数の基地が開発される見込みである。こうしたプロジェクトは国内からの供給を補うと共に、成長する市場の需要を満たすであろう。
・インド政府は、パイプライン・ガス事業が困難な挑戦であることを知りつつも、パイプラインによる中東産ガス供給の確保に期待を寄せている。 パイプライン輸送は明らかに経済的なオプションではあるものの、 政府はプロジェクトを妨げている大きな政治的障害を乗り越えることが出来ないでいる。パイプライン・ プロジェクトの開発に政府が改めて焦点を当て始めたことを受け、市場の期待は高まった。しかし、提案中のプロジェクトは、 米国からの強い反対やパイプラインのパキスタン通過部分の安全保障といった地政学的不安に加え、資金調達の不確実性にも直面している。
・国内における新規供給と同様、輸入ガスの販売/価格設定も規制の対象外となる。このことが規制を受けるガスよりも「市場が価格を決定する」 ガスを好む方向へインド国内市場を一層動かすこととなり、その結果、更に新しい供給源を同市場に呼び込むことになるであろう。
  こうした提案中のプロジェクトを加味し、CRISILはインド市場向けに供給されるガスの量を予測し、グラフを作成した (<グラフ1>参照)。
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下流市場の発展

  インドの下流部門は、上流/中流部門の発展に対する触媒の役割を果たしている。今後数年間で、 天然ガス需要は大幅に増加すると予想されている。また、民間プレーヤーによる参入の増加が予測されることから、市場では、 参入を促進するような規制構造を発展させる必要があるとの認識が広まっている。
・天然ガスは利用者の大半、特に最大規模の消費者である電力/化学肥料会社にとって、
「好ましい燃料」となりつつある(本記事末尾<インド天然ガス需要の見通し>参照)。これは、 インドの天然ガス需要の目覚しい成長に繋がるであろう。この需要増加の可能性により、市場向け供給量の推移に対する関心は更に高まった。
  独自の市場分析に基づき、CRISILは2025年までのインドの天然ガス総需要について、年平均7.3%増加し、 約148億立方フィート/日(LNG換算約1億トン/年)に達すると予想した(<グラフ2>参照)。
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・新たな供給源/供給地域の出現により、複数の新規インフラ・プロジェクトが計画された。計画中のプロジェクトの中で最も重要なものは、 インド国営ガス会社(GAIL)による天然ガス網(NGG)プロジェクトである。これは、既存/新規供給源と国内全てのガス市場(既存/ 新規を含む)の接続を目的とした、多数のセクションから成る輸送ネットワークである。またGAIL以外の、 上流部門に携わる民間団体を始めとする市場プレーヤーも、インド各地で州際パイプライン網を開発する計画を発表した。 こうしたプロジェクトはインド天然ガス市場を将来的に発展させる上で不可欠であり、これにより自国における市場の統合も促進されるであろう。
・インド政府は、市場の下流部門規制機関の設立を提案した。この規制機関は、 同国電力産業における中央規制機関と類似した独立団体となる見込みである。規制機関を設立するため、政府は石油/ガス規制審議会法案 (PNGRB)を作成し、同法案は長い議論を経た後、上院にて審議された。PNGRBは近日中にも承認されると見られる。 同法案の条項に従い、規制機関は全ての市場プレーヤーが対等な立場で競争を行うための活動環境を提供する。これには、 供給インフラにおけるサード・パーティー・アクセス(TPA)の確保や、GAILを始めとする統合的な下流部門団体の分離 (アンバンドリング)が含まれる。
・インド政府は、下流部門における競争を促すパイプライン政策の草案も発表した。提案された政策は、 同国初となるTPAのためのパイプライン・インフラ開発を目的としている。この政策が、既に契約済みの輸送能力に適用される可能性は低いが、 未契約の輸送能力についてはその政策の対象として検討されるだろう。また現在、インドのパイプラインの大半はフル・ キャパシティに満たない輸送能力で操業中であるため、同政策はこのような未操業の能力に適用される可能性も高い。
・多目的なオンライン商品取引を行うナショナル・コモディティ&デリバティブ・エクスチェンジ(NCDEX)社は、 天然ガス取引プラットフォームを近々立ち上げる意向を明らかにした。これを実現するため、NCDEXはGAILとの間で覚書(MOU) を締結した。両者は先物商品に先駆け、天然ガスのスポット市場を共同で開発することで合意した。NCDEXは以前、 グジャラート州を本拠とするグジャラート州営石油会社(GSPC)との間で同様のイニシアチブを発表しているが、 アクセスできる顧客の数が限られることを理由に、こちらはやむなく中止された。一方、GAILとのMOUが実現すれば、 NCDEXはインド北部/西部を通じて大規模でより多様な消費者グループへのアクセスが可能となる。また、 契約やリスク管理プロセスを立案し、決済機能を明確にするためのコア・グループが結成された。このグループは、ユーザーと協力して天然ガス・ トレーディングの促進に取り組む。天然ガスの先物は、余剰数量部分及び新規追加分ガスの基準価格を市場に提供するであろう。
 このように、インド市場は現在、天然ガス・バリュー・チェーン全般において絶え間ない変化を経験しつつある。<表1>は、近い将来、 インド天然ガス産業を形成すると目される重要な市場の発展を要約したものである。
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 ガス産業のこうした発展は、インド市場における需給量の増加を促すと見られる。<グラフ3>では、2005- 25年のインド市場における需給バランスに関するCRISILの見通しが示されている。
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  既に述べたように、インドのガス市場は現在、大規模な供給不足を経験しており、2010年頃までの短期間に、 需給が大幅に拡大すると思われる。その結果、市場は2008-15年の間、多少流動的な状況に置かれることが予想される。 需要が引き続き増加し、供給に制限が課されなければ、2015年以降、市場は再び拡大するであろう。 従って市場は新規供給者たちに重要な機会を提供すると、特に2015年以降はこの傾向が強まると思われる。
  しかし重要なことは、市場がこうした潜在性に反応し、特に今後数年間のバリュー・ チェーン全般に及ぶ計画が予定通り進められるかどうかという点である。次章では、 インドの天然ガス産業にとって重要と目されている複数のプロジェクトにスポットを当てる。

<インド天然ガス需要の見通し>
  以下は、 インド天然ガス部門の成長を促す様々な要素である。
◆  最終消費部門の成長:インド経済に対する堅調な成長見通しと、その結果生じる末端消費者による天然ガス消費の増加が今後、 天然ガス市場を動かす原動力となるであろう。
・電力部門:2003年の電力法の議会通過を受け、「コスト競争力」が電力部門における参画企業のキーワードとなるであろう。 コンバインドサイクル(複合火力)ガス・プラント建設に要する計画期間が短いことや、ガス火力発電におけるエネルギー効率の高さ、 更には石炭と比較した場合かなりの環境的利益が見込めることなどを勘案すると、ガスはインド国内で、発電に好ましい燃料になると思われる。 また、最近の石炭不足を考慮しても、天然ガスは新たな発電能力に対する理想的な燃料となるであろう。
・化学肥料部門:エネルギー消費量と資本回収の基準を厳格にすることで、 化学肥料部門の輸入尿素に対するコスト競争力を高めようとするインド政府の取り組みは、前向きな対策である。これにより、 化学肥料工場はますます、ガスを基盤とするプロセスを採用するようになるだろう。
・産業/商業/家庭部門:インドの今後の経済成長は、その恩恵を産業/商業/家庭部門が受けることから、 天然ガス需要を増加させる要因となるであろう。
・天然ガスへの転換:天然ガスへの燃料転換は、様々な最終消費者に経済的な利益をもたらす。電力部門において、 天然ガスは液体燃料を基盤とするプラントの代替燃料となる可能性があり、化学肥料部門においては、ナフサや燃料油(FO)/ 低硫黄ディーゼル(LSHS)の理想的な代替品である。
◆ 規制の透明性:民間企業の参画を促進する規制環境の整備に向けたインド政府による最近の取り組みは、供給/ 輸送インフラ強化に必要な大規模な資本投資を惹きつけると思われる。
◆ 環境への関心:産業排出物や輸送汚染に対する世界や国内からの関心の高まりは、 インド政府にとって天然ガス利用を促進する強制力となっている。政府は圧縮天然ガス(CNG)プログラムの実施を、ムンバイ/ ニューデリーに加え11都市を皮切りに徐々に拡大する計画である。
◆ インフラ開発:今後数年間のインド国内ガス市場の成長は、供給の利用可能性の拡大に加え、 効率的且つ全国規模のガス網開発にかかっている。新たな供給源と今後開拓が待たれる市場を接続するパイプライン・ネットワークは、 地域間における需給の不均衡の現状を是正するために必要である。
◆ エネルギー安全保障への関心:石油輸入額の増加が強制力となって、 インド政府は同国経済の石油依存度を軽減するための代替エネルギー源を探し始めた。天然ガスへの転換を促進することで、 政府はバランスの取れたエネルギー燃料構成(ミックス)を構築できるだけでなく、石油供給が途絶した場合に備え、 エネルギー安全保障も確保できる。(大)
(Crisil Infrastructure Advisory)

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