- 2007年05月09日
- 2007年のLNG業界-今後10年間の成長見通し(下)
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今週は、需給両サイドから見た2006年におけるLNG産業の動向及び今後の見通しを示した、 英国在住のLNGコンサルタントであるアンディ・フラワー氏による寄稿論文「2007年のLNG業界-今後10年間の成長見通し」 の最終回をお届けします。
売り手市場におけるLNG価格
2005年初頭よりLNGの需給バランスが逼迫している。売り先の決まっていない生産分を巡り買主が競合する状況下、 交渉における生産者の立場は強くなった。これは、短期/長期いずれのLNG価格も上昇傾向を示していることからも明白である。<グラフ6>は、大西洋地域からのカーゴに対して2006年に日本の買主が支払った価格を示している(出典:財務省)。 (トリニダード・トバゴから4月に受渡しのあった)1カーゴを除く全カーゴの価格が、本来仕向けられたであろう市場、つまり米国のヘンリー・ ハブ及び英国のナショナル・バランシング・ポイント(NBP)での価格にプレミアムを上乗せしたものだった。しかも、90% 以上が長期契約に基づいている日本のLNG平均価格よりも大幅に高いものだった。買主がこうした高価格での購入を余儀なくされたのは、 欧米との競争の中でどうしても欲しいカーゴを確保するためであった。米国の受入基地がピーク能力の約3分の1で操業していたのを見ると、 カーゴを巡って、またその利ざやを削って企業らが積極的な入札を行っていたものと思われる。しかし、ヘンリー・ ハブを上回る価格で入札することは、買主が取引により損失を被ることを意味する。
価格上昇の兆候は、2002年以降に調印された新規の長期契約価格に、最も顕著に表れている。 買主も売主も互いに合意した価格フォーミュラを内密にしようと努めるが、否応なく漏れ出す情報を集めれば、 かなり正確な図式を描くことができる。<グラフ7>は、 2002年から06年後半に合意された取引における原油価格とLNG価格の相関関係の変遷を示したものである。
2002-04年は、買主が不足していた一方で供給量には事欠かない時期であった。インドネシア・ボンタンのI(第9) トレインと同タングー・プロジェクト、ロシアのサハリンⅡプロジェクト、豪州北西大陸棚(NWS)の第4/5トレイン、 カタールのラスガスとカタールガス・プロジェクト、マレーシアのティガ(MLNGⅢ)、イエメン、オマーンのカルハットLNG、 そしてイランが皆一様に、新規施設の投資コミットメントの鍵となる予定生産量を販売しようと競っていたのである。 アジアの買主はこの好機を利用して、20ドル(約2,400円)/バーレルを中心に上限25ドル(約3,000円)/バーレル、 下限15ドル(約1,800円)/バーレルという非常に有利な取引を交渉した。今になってみれば、当時の下限15ドル/ バーレルは売主にとって殆ど或いは全く意味を成さない価格であり、上限の25ドル/ バーレルが今後暫くの間続く当面の価格を有効に示すものであった。当時成約された契約は、実際に供給できる数量を減らされ、 当初強かった彼等(買主)の交渉スタンスは弱まり、より高い価格でのオファーを強いられた。上限価格はまず約40ドル(約4,800円)/ バーレル前後に推移し、その後は60ドル(約7,200円)/バーレル或いはそれ以上にまで上昇した。2006年半ばまでにタングー/NWS/カルハット/ラスガス/カタールガス/イエメン/サハリンⅡが事実上完売し、 またインドネシア・ボンタンのI(第9)トレインも閉鎖されたため、未成約の供給量は極めて限られた。アジアの買主らは、 当初英国や米国に割り当てられていたカタールのカーゴを融通して(自国)に振り替えてもらうこと等に対し、 極端に高い価格を支払わなければならなかった。こうした取引の中には価格が原油パリティ(平価)を上回り、60ドル/ バーレルを上回るものさえあった。
2002年以降のLNG価格の上昇から、アジアの買主は現在、下は3.5ドル(約420円)/百万Btu未満から上は10ドル (約120円)/百万Btuを超える価格でLNGを購入していることが分かる。これまで狭い幅で価格が変動していた市場において、 これは前例のない価格幅である。ここで焦点となるのは、今後数年間に価格がどのように推移するかということである。買主らは、 昨今の契約に見られる高価格が、LNG再気化ガスの競合燃料に対する競争力を下げ、 そのマーケットシェアや需要全体を侵食することに注意を払わなければならない。一方で、 買主は高い価格で購入することに抵抗を示そうするのであれば、新たなLNG供給確保が困難となる事態に直面するのだ。この問題は、 既存長期契約の価格再交渉と2007-13年以降の契約更新を控えている日本の買主らにとって、特に重大である。
大西洋地域市場では、米ヘンリー・ハブ/英NBP/ベルギー・ジーブルージュなどのハブ価格が、 次第に長期契約におけるLNG価格の基準となりつつある。一般的に、米国や欧州北西部の受入基地に輸送されるLNGの価格は、 受渡し月の当該地でのハブ価格に対するパーセンテージで設定される。売主に対して支払われるパーセンテージは、ガスの生産/液化/ 輸送コストを賄う(Ex-ship:着船渡しベースの場合)のに対し、残りのパーセンテージは、買主の受入基地費用と販売コストで、 基地から(ガスとして)再出荷される際の価格とハブ価格との価格差で賄われるべき諸々の発生費用を含んでいる。FOB(本船渡し) ベースで販売された場合には、輸送コストは一般に受渡し価格から差し引かれる。買主らは、LNGを再ガス化した後の価格が、 ハブ価格と同等もしくはそれを下回るような時にのみ購入が可能となるのであり、それ以外の取引では損害を被ってしまう。従って、NBP/ ヘンリー・ハブ/ジーブルージュにおけるハブ価格は、買主が売主に対して支払い可能な価格の上限を事実上示すものである。
これらの市場では、供給の目処が立っているLNGを巡り買主間で熾烈な競争が繰り広げられてきた。例えば、 ナイジェリア国営石油会社(NNPC)が最近入札に付したOK LNGの生産量360万トン/年に対して、 30件を超える応札があったとの報道がある。ハブ価格に対して買主がオファーしたパーセンテージを見ても明らかなように、 競争の加熱が価格を押し上げた。米メキシコ湾岸市場向けLNG価格が、ヘンリー・ハブの80-85%であったのに対して、最近の取引では、 その割合が90%を越えるまでに上昇している。
結論
LNG事業の急速な成長は2006年も継続し、加速さえした。輸入量は殆どの市場で増加したが、米国においては減少した。 客先への需要に応えるためには、高い価格を厭わないアジアや欧州の買主へと振り向けられたためである。 既存買主らによる受入能力の拡張と新規買主らが計画する新たなLNG輸入で、新規再ガス化能力が世界中で開発されている。多くの場合、 買主とその政府は、供給安全保障を向上させる目的でガス供給源の多様化を図ろうとLNGに関心を寄せている。LNG船の所有者や造船会社は、活況に応え2006年内に28隻という記録的な数の就航を実現した。結果、 同年末の稼働船隻数は218隻となった。更に現在、142隻が発注に付されている。発注されている船舶の平均サイズは、 以前のものと比較して著しく巨大化していることから、全てが就航することになる2010年までに総輸送容量はほぼ倍増するであろう。
中/長期的に事業の主な制約となるのは、液化能力である。2006年が1998年以来初めて、 液化能力へのコミットメントが行われなかった年であったとの事実は、建設コストが倍増する新たな環境の中にあって、 いかに新規プロジェクトを進展させるのが困難であるかを示す明らかな警鐘となった。これが「一時的な停止」なのか、 それとも液化能力の建設速度が観測筋の予測や買主の希望を下回るスピードとなるのかは、今後2年間で明らかになるであろう。 2006年に新規液化トレインの建設が全く開始されず、新規液化能力の操業開始が遅延したことで、2012年時点の液化能力は、 私が僅か12ヵ月前に予測したものと比べ4,700万トン/年も下回る結果に繋がりかねないと予測している。
現在は、稼働中の1億8,850万トン/年と建設中の9,220万トン/年に加えて、2億5,000万トン/ 年を超える液化能力が計画されている。しかし、計画中の能力の3分の2以上は、ナイジェリア/豪州/ロシア/ イランの僅か4ヵ国のものである。これらの国々は、カタールが過去4年間に達成したスピードでのLNGの開発を推進できていない。 現在建設中の新規能力の約50%をカタールが占めるという事実は、2010年以降も、 同じスピードで拡大を続ける第2のカタールが現れるかどうかという重要な問いを投げかけている。
現在の逼迫した需給バランスが今後10年間は十分継続可能と思われることから、 多くのアナリストが示唆したよりも遥かに長期に亘って売り手市場が継続する可能性もある。逼迫した市況により、売主らは過去2- 3年間において価格を引き上げることができた。アジアでは長期契約の価格が原油パリティへ向かう動きとして表れた。原油価格が60ドル/ バーレルになっても同様だった。大西洋地域の市場では、売主らは(ヘンリー・ハブ/NBP/ジーブルージュを基準とした) 市場価格より高いパーセンテージで価格交渉することが可能となった。
2007年がどう展開していくか、LNGビジネスの全参加者が強い関心を持って見守るであろう。新規液化能力への最終投資決定 (FID)が全く下されなかったことが一時的な停滞を意味するのか、 それともこれらプロジェクトを建設段階まで移行させるのに困難な状況が続くのかは、2007年の展開により明らかとなるからである。 売主が交渉において強い立場を今後も享受できるのか、それとも買主が(価格の高騰によりガスの競争力が低下することで引き起こる) マーケットシェアの損失に直面し、価格上昇圧力に抗することができるのかは、価格交渉の結果により示唆されるはずである。【川上】
