ダイアモンド・ガス・オペレーション株式会社


賢人達の視点

2007年05月16日
ロシア産ガスとガスプロムの将来:過去1年を振り返って(上)

 今週から3週に亘って、オックスフォード・エネルギー研究所(OIES)のガス研究所所長ジョナサン・ スターン氏による弊誌への書き下ろし論文、「ロシア産ガスとガスプロムの将来:過去1年を振り返って」をご紹介致します。本稿は、 「ロシア産ガスとガスプロムの将来」(同じくスターン氏による寄稿、DGR752及び753号に掲載)が執筆された時点から今日までの、 ロシアにおけるガス業界の進展を振り返ったものです。

序論
 DGR 2005年12月号に寄稿して以来、ロシアのガス産業は欧州及びアジアにおいて、国際エネルギー・ ニュースの主な話題の一つとなっている。実際のところ、2005年末以降あまりに多くの進展があり、 どこに焦点を当てるべきかの判断が難しく、全ての出来事を網羅することは不可能である。従って、本稿ではガスの生産/需要/ 輸出に限定して取り上げることにする。よって、その他の主な進展、 例えばガスプロムが石油会社シブネフチを買収してその石油資産を別の子会社(ガスプロムネフチ)へ併合し、現在約100万バーレル/ 日の石油生産を行っていることなどについては、スペースを割くことができない。

供給と輸送
 ガスプロムの主要3ガス田における生産量が低下していることもあり、ここ数年間は、同社が新たな大規模供給、 とりわけヤマル半島からの供給開始時期に関し、明確な戦略をいつ発表するかが待たれていた。ようやく、同社は2006年10月、 同半島ボバネンコ・ガス田への開発投資を開始したと発表した。この超巨大ガス田では、2011年第3四半期までに150億立方メートル/年 (LNG換算約1,100万トン/年)が生産され、その後生産量はプラトー時に1,150億立方メートル/年(同約8,100万トン/年)、 最終的には1,400億立方メートル/年(同約9,900万トン/年)まで拡大される[註1]。 生産量がこれらの水準に達する正確な時期については明らかにされていないが、1,150億立方メートル/ 年は2010年代中盤に達成されると見込まれる。

 また、輸送についてガスプロムは、ボバネンコ・ガス田からオビ湾を横断するパイプラインを敷設してヤンブルグ・ ガス田の既存パイプライン網に接続するという「容易な」輸送方法(<地図1>参照)に眼も呉れないでいる。その代わり、 永久凍土層という困難な条件を伴うBaidarat湾を横断してUkhtaで既存パイプライン網に接続する、全長1,244キロメートルの 「パイプライン回廊」を新設する予定である[註2]。ガスプロムが、なぜヤマル半島でのガス生産第1フェーズにおいて、 既存生産ガス田を経由するルートよりも工期が長く、高額な投資額が必要となる後者を選んだのかは明らかでない。一つ考えられるのは、 ヤマル~Ukhta間の「回廊」が一旦確立されれば、より早くヤマル半島での生産量を3,000億立方メートル/年 (同約2億1,000万トン/年)という最終目標まで引き上げられるという理由である。
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 供給に関するもう一つの大きな進展に、非ガスプロム系生産者による生産量の増大がある。「独立系」企業による2006年の生産量は、 (ロシアにおける)総生産量6,560億立方メートル/年(同約4億6,000万トン/年)のうち、約1,050億立方メートル/年 (同約7,400万トン/年)であった。そして主要企業5社[註3]は、 この合計量を2010年代前半までに少なくとも1,500億立方メートル/年(同約1億1,000万トン/年)まで引き上げる計画であり、 2015年までには2,000億立方メートル/年(同約1億4,000万トン/年)となる可能性もある。

 中央アジアからの輸入は、ロシアにとって第3の潜在的ガス供給源である。2006年末のニヤゾフ・ トルクメニスタン前大統領の死によって、同年のそれ以前にガスプロムとの間で締結されていた2007-09年の500億立方メートル/年 (同約3,500万トン/年)のガス供給契約が危うくなりかけたが、2007年初頭に後任者(ベルドイムハメドフ新大統領) が同契約の継続履行を確認した[註4]。また、2007年にはウズベキスタン及びカザフスタンから、相当量の追加輸入を行うことで合意した。 ウズベキスタンとは(2006年の90億立方メートル/年:同約630万トン/年に対して)130億立方メートル/年(同約920万トン/ 年)、カザフスタンとは約100億立方メートル/年(同約700万トン/年)である。その結果、 ガスプロムは2007年に中央アジアから合計700億立方メートル/年(同約4,900万トン/年)以上のガスを輸入することになり、 ウズベキスタン/トルクメニスタン両国の国境渡し価格で100ドル(約1万2,000円)/ 1,000立方メートルで購入することに同意した[註5]。このガスのうち約550億立方メートル/年(LNG換算約3,900万トン/年) はロスウクルエネルゴ(RUE)[註6]によりウクライナで再販売され、残りは恐らく他の独立国家共同体(CIS)諸国で販売されるか、 ガスプロムがKazrosgaz及びRUEと共同で欧州へ輸出すると考えられる。ここで最も重要な点は、(中央アジアからの輸入分のうちで) ロシア国内で販売されるガスが実質的に無いことであり、その理由を次で見ていく。

需要と価格
 2006年には、ロシアのガス需要と価格政策において非常に大きな進展があった。ただ、(同国の)ガス需要については、正確かつ一貫的な、 また気温補正後のデータを入手することは不可能である。ガスプロムの発表では、 同一年のデータでも最大で180億立方メートル/年 (同約1,300万トン/年)の開きがある場合があるのだ[註7]。
Shot_1

 <表1>の数値は、2000年代にガスプロムのガス売上が横ばいだった一方で、ロシアのガス総需要は増加し続けたことを示している。 しかし、これらの数値は、特に発電部門における2006年のガス需要が、主に以下二つの要因によって著しく増大したことは示していない。 その要因とは、1999年以降ロシアの国内総生産(GDP)の年平均成長率が5-7%であったことと、2007年に同国GDPが1990年 (ソビエト連邦が消滅した前年)の水準に再到達する可能性が高いことである。このようなGDPの成長により電力需要の年間成長率は4-6% となり、2006年(の電力需要の成長率)はその中でも最高値を記録した。ロシアのエネルギー政策立案者は、省エネや効率化により電力/ ガス需要の成長率が緩やかになると予測していたが、実際にはそうならなかった。というのも、 両エネルギー形態の価格があまりにも低く留まったため、需要家を省エネ、 もしくは燃料効率の良い新規プラントへ投資を行うよう導けなかったからである。同時に、 ガス価格は他のいずれの燃料価格を依然として下回っていたため、全需要家、とりわけ発電/ 産業部門にはガスへの燃料転換を行う動機付けがあった。

 政府内で相当な議論が行われ、プーチン大統領も関与した結果、2006年11月には、 ロシア国内の産業需要家及び発電所向けガス価格が2011年までに「欧州の価格水準」へと引き上げられると発表された[註8]。 この決定をどのように解釈するか判断する上で多くの問題がある。輸出税及び輸送料を加味すると、 ロシア国内の価格はたとえ欧州での国境渡し価格の半分であっても「(欧州の水準と)同等」と見なされるのである。また、2008年以降、 ロシアの次期大統領が異なる見解を持つ可能性もある。それでもやはり、国際通貨基金(IMF)/世界貿易機関(WTO)/欧州連合(EU) からの長年の要求でもあった、ロシアの産業需要家らが市場経済に則り、同加盟国並みのガス価格を購入先に支払うべきとの政策を、 ロシア大統領がはじめて支持したことは注目すべきである。絶対額で言うと、約120ドル(約1万5,000円)/ 1,000立方メートル時に50ドル(約6,100円)/1,000立方メートルという現在のロシア規制価格が、 2011年には倍以上になるということである。この事は、主に以下のような大きな結果をもたらすだろう。
・(ロシアのガス生産量を今後20-30年に亘り支える)ヤマル半島のガス田におけるガス開発が、 国内の顧客に対しても採算の取れるものとなる。
・中央アジア産ガス販売が、ロシア国内で採算の取れるものとなる(ロシアにおける現行価格では採算が取れていない)。
・ガスプロムや他の生産企業にとって、ロシア国内市場向けのガス生産量及び販売量を最大限まで引き上げるためのインセンティブとなる。
・ロシアとしては初めて、省エネと効率化に向けた投資が採算の取れるものとなり、 電力部門及びエネルギー集約型産業に向けた巨額資本の入れ替えというインセンティブとなる。
・最終的には、ガスプロムにとって今後生産されるガスを国内市場で販売しても輸出しても、経済的には変わらなくなることを意味する。【川上】

[註1]『ガスプロムの経営委員会、ボバネンコ・ガス田開発の投資段階開始を決議』、ガスプロム・プレスリリース、 2006年10月6日

[註2]詳細は、A.G.アナネンコフ副会長による生産計画に関するプレゼンテーション及び記者会見(ロシア語)を参照: http://www.gazprom.ru/articles/article21941.shtml

[註3]5企業とは、ルクオイル、スルグトネフテガス、ロスネフチ、TNK-BP、ノバテックである。

[註4]『ガスプロムの代表団、トルクメニスタンを訪問』、ガスプロム・プレスリリース、2006年9月5日; 『ガスプロム代表団のトルクメニスタン訪問について』、ガスプロム・プレスリリース、2007年2月15日

[註5] 2007年のカザフスタン産ガスの価格は、140ドル(約1万7,000円)/ 1,000立方メートルにまでなると報道されている。

[註6]RUEは合弁会社で、ガスプロムと実業家Dimitro Firtash氏率いるウクライナのコンソーシアムが折半出資している。ガスプロム、ないしはその合弁形態に関しては、(コーポレート・) ガバナンスの問題で西欧マスコミの批判を受けている。

[註7]これは恐らく、需要の定義が複数あることと、前年度からのデータ補正による。

[註8]http://www.government.ru/government/governmentactivity/
government_meetings/archive/2006/12/01/2833216.html
これは、産業需要家及び発電所向け価格にのみ言及しており、引き続き助成金が支払われる民生需要家向けの価格には言及していない。

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