ダイアモンド・ガス・オペレーション株式会社


賢人達の視点

2007年05月23日
ロシア産ガスとガスプロムの将来:過去1年を振り返って(中)

 今週も先週に引き続き、オックスフォード・エネルギー研究所(OIES)のガス研究所所長ジョナサン・ スターン氏による弊誌への書き下ろし論文、「ロシア産ガスとガスプロムの将来:過去1年を振り返って」をご紹介致します。本稿は、 「ロシア産ガスとガスプロムの将来」(同じくスターン氏による寄稿、DGR752及び753号に掲載)が執筆された時点から今日までの、 ロシアにおけるガス業界の進展を振り返ったものです。

欧州へのパイプライン・ガス輸出と新規輸出パイプライン
 ヤマル半島や独立系生産者からの新規供給の開始が遅れる可能性や、(ロシア)国内需要の増加といった要因もあり、 ガスプロムは欧州の需要家に対して契約済み数量の輸出義務を果たせないのではないかとの憶測が飛び交った[註9]。<表2>は、 過去10年間における欧州及び独立国家共同体(CIS)諸国向けのロシア産ガス輸出量を示している。欧州への総輸出量は、1995- 2005年の10年間で25%以上増加した(2006年には幾分か減少した)。しかし、この増加分は全て、50% 近くも数量が増えた西欧への輸出分だったことが分かる。<表2>のCIS諸国向け輸出量については、 ロシア産ガスの輸出分と中央アジア産ガスの再輸出分が曖昧なため紛らわしい。2006年には、 中央アジア諸国との国境でガスプロムからガスを購入し主にウクライナへ転売するロスウクルエネルゴ (RUE)向けの売上が、 ガスプロムの統計において別途計上されるようになったため、多少分かりやすくなった。
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 ロシア産ガスの輸出で2005年後半以降最も注目を浴びた二つの出来事は、2006年1月上旬に欧州でロシアからのガス供給が2- 3日間停止するという事態を招いたロシア/ウクライナ間の危機と、2007年1月に、 ベラルーシとの間で起こった同様の危機により欧州数ヵ国でロシアからの原油供給が一時途絶えたことである[註10]。 これらの出来事の要因となったのは、CIS諸国に対するロシア産ガス価格を「市場を反映した」価格、 つまり欧州並みの価格へ移行させようとするロシアの意図である。2005年には、CIS諸国は欧州ガス価格の約20% の価格でガスを購入しており、これはロシアから毎年何十億ドルもの補助金が支払われているのと同じことを意味する。

 ロシア政府とガスプロムにとって、これらの出来事の結果として重要だったのは、「通過回避」戦略(訳者註: 欧州向けパイプラインの通過国を特定の国《特にCIS諸国》に限定せず、多様化していく戦略)の正しさが確認されたことである。この戦略は、 (ベラルーシを経由する)ヤマル・パイプラインで始まり、黒海を横切ってトルコへ抜けるブルーストリーム・パイプラインでも続いている。 また、エーオン・ルアガスとヴィンタースハルを合弁パートナーとし、(露サンクトペテルブルク北方) ヴィボルグからバルト海を経由して独グライフスバルトに至るNord Streamパイプライン(旧称北欧ガス・パイプライン:NEGP、 またはノース・トランスガス:NTGパイプライン)の建設も開始した(<地図2>参照)。これら企業は同パイプラインの権益保有者で、 同パイプラインを通じた長期のガス輸入契約を締結している。また、同パイプラインへ供給を行うシベリアの南ルスコエ・ ガス田の権益も保有している。更にガスプロムは、ブルーストリーム・ パイプラインを通じた輸送量の倍増にも繋がる可能性を持つ南欧パイプラインについても検討している。 これによりウクライナやその他のCIS諸国を避けての欧州南東部向けガス輸送が可能となるだろう。これらプロジェクトは極めて費用が嵩み、 ウクライナやベラルーシを経由する既存ルートの能力拡張よりも遥かに高額となるが、 ガスプロムは既存ルートを経由して欧州へガス供給を行う確実な方法の維持を諦め、 既存ルートを迂回する方法以外にあまり選択肢を考えていないことは明白である。
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ロシア産ガスと欧州における供給の安全保障問題
  ウクライナ及びベラルーシでの危機は、 欧州の政治家/メディアの大半に「エネルギーに関するロシアの脅迫」と解釈され、 ロシア産ガスへの依存が欧州のエネルギー安全保障を脅かすか否かといった差し迫った問題を投げかけた。しかし、昨年ガスプロムは、 その最も重要とするドイツ/フランス/イタリア/豪州の買主との長期契約に関し、20-30年間の供給延長で合意している[註11]。 これらの契約は欧州向けガス供給量の主要部分を実質的に延長するというだけでなく、法的拘束力を持ち、 契約不履行の場合には確定損害賠償額を国際仲裁に訴えられることを前提としている。これは、 ウクライナやベラルーシといったCIS諸国向けの販売とは全く異なる状況である。CIS諸国では、契約数量及び価格が毎年更新され、 また前述のように2006年までガス価格は、欧州需要家へガスプロムが課す長期契約価格のほんのわずかな部分に過ぎなかった。 ガスプロムの欧州へのガス輸出による2006年の売上は390億ドル(約4兆7,000億円)であった。 これは世界最大級の企業の一つである同社といえども、台無しにするには躊躇する非常に大きな額である。特に、 パイプライン輸出のインフラ設備に関してこれまで行ってきた、そして今後も行っていく投資額を考えると尚更である。

 2007年2月には、更なる懸念が浮上した。プーチン大統領が、 イラン大統領によるガス版OPEC結成の提案に対して次のように答えたのである。
「面白い案であり、検討してみたい。カルテルのようなものを結成する計画はないが、 特に我々の主要消費者らに対して確実で信頼に足るエネルギー資源の供給を保証する主目的を請合うものであるという点において、 我々の活動の調整を行っていくことは良い考えだと思う」[註12]。
 
 ロシア大統領によるコメントの非常に明確なメッセージは、輸出価格/数量を規制することよりも、 第一義として競合を防ぐためにガス輸出国間で協力、協調していくことが可能であるかという点に関心を示しているということであった。 ガス輸出国フォーラム(GECF)が既に存在しているものの、これは加盟国の定義という点でまだ定まっておらず、将来性が不透明な、 やや未整備の組織なのだ[註13]。【川上】
 
 [註9]この問題については以下を参照:ジョナサン・スターン、『欧州ガスの新たな安全保障環境』、OIES: 2006年、 http://www.oxfordenergy.org/pdfs/NG15.pdf

[註10]詳細については以下を参照:ジョナサン・スターン、『2006年1月のロシア・ウクライナ間のガス紛争』、 オックスフォード・エネルギー・コメント、2006年1月、http://www.oxfordenergy.org/pdfs/comment_0106.pdf; Katja Yafimava & ジョナサン・スターン、『2007年のロシア・ベラルーシ間のガス契約』、オックスフォード・ エネルギー・コメント、2007年1月、http://www.oxfordenergy.org/pdfs/comment_0107-3.pdf

[註11]『ガスプロム/ガスエクスポート/OMV、西欧向け天然ガス供給について新契約を締結』、ガスプロム・プレスリリース、 2005年5月17日;『ガスプロムとエーオン、既存契約の延長とNEGP経由のガス供給で契約締結』、ガスプロム・プレスリリース、 2006年8月29日;『ガスプロムとENI、戦略的パートナーシップ協定に署名』、ガスプロム・プレスリリース、2006年11月14日; 『ガスプロムとガス・ド・フランス、ロシア産天然ガスのフランス向け供給契約を最長2030年まで延長』、ガスプロム・プレスリリース、 2006年12月19日

[註12] http://www.kremlin.ru/eng/speeches/
2007/02/01/1309_type82915type82917_117609.shtml

[註13]Hadi Hallouche、『GECF:本当にガス版OPECの卵か?』、http://www.oxfordenergy.org/pdfs/NG13.pdf; ジョナサン・ スターン、『ガス版OPEC-ロシアの欧州向けガス供給に関する重要な課題から目をそらさせるもの-』、http://www.oxfordenergy.org/pdfs/comment_0207-1.pdf

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