- 2007年05月30日
- ロシア産ガスとガスプロムの将来:過去1年を振り返って(下)
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今週は、オックスフォード・エネルギー研究所(OIES)のガス研究所所長ジョナサン・ スターン氏による弊誌への書き下ろし論文、「ロシア産ガスとガスプロムの将来:過去1年を振り返って」の最終回をお届けします。本稿は、 「ロシア産ガスとガスプロムの将来」(同じくスターン氏による寄稿、DGR752及び753号に掲載)が執筆された時点から今日までの、 ロシアにおけるガス業界の進展を振り返ったものです。
大西洋地域へのLNG供給
過去1年の間に、ガスプロムは、グローバルLNG事業に関する自社の(周知の)考え方を、二転三転させてきた。大西洋地域では、 同社はシュトコマノフスコエ(シュトクマン)LNGプロジェクトに参加する外資パートナー5社を選定したが、 2006年10月には海外からの参画企業なしに単独でプロジェクトを遂行する決定を下したと発表した[註14]。シュトクマン・ プロジェクトの第1フェーズはNord Streamを使ったパイプラインによる欧州へのガス輸出に焦点が当てられ、 LNGの輸出は第2フェーズとなる。しかし、数ヵ月後、ガスプロムは外資の参画について立場を翻し、当初のパートナーに、 権益や埋蔵量の保有者としてではなくコントラクター(のみ)としてプロジェクトへの参画を呼びかけた[註15]。 これら企業にとってコントラクターという立場が魅力あるものかどうか定かではなく、 また魅力がないと判断された場合にガスプロムがどうするかも不明である。(同プロジェクトには)生産段階における技術的な複雑さや、 ムルマンスクまでの650キロメートルに亘る沖合パイプライン(の建設)などの要素もあり、 ガスプロムが単独でプロジェクトを迅速に進展させるのは不可能であろう。ガスプロムにとってもう一つの大西洋地域向けLNGプロジェクトであるバルティックLNGプロジェクトも、 過去1年間に殆ど進展しなかった。予測に反し、外資パートナーは未だ選出されておらず、またガスをシベリアから数千キロメートル輸送し、 液化してから北米(または欧州)へ輸送しなければならないことから、プロジェクトの採算性が疑問視されている。 大西洋地域でガスプロムが関わった唯一のLNG事業は、英BG/同BP/蘭シェル/仏ガス・ド・フランス(GdF) といった企業と数カーゴのスワップを行ったことであった。ガスプロムはLNGが引続き最優先事項であると主張し続けているが、 2015年までに大西洋地域で相当量のロシア産LNGが取引されるかどうかは疑わしく、2020年までとした方が適切であろう。
アジアへのLNGとパイプライン・ガス輸出
太平洋地域における主な進展は、ガスプロム/ロシア政府機関と合弁パートナーの間の長期に亘る交渉の末、 ガスプロムがサハリンⅡLNGプロジェクトの過半数権益を取得したことであった。これは、 販売開始が遅延するという結果を招く痛みを伴う過程であったが、プロジェクトの成功及び日本/ 北米の買主との間で締結されている長期契約には影響しないはずである。このほか、ロシアの東アジア向けパイプライン・ガス/LNG輸出プロジェクトに関してはいずれも、 過去1年間においてはっきりとした進展は殆どなかったが、2006年3月に、ロシア大統領と中国国家主席は、 以下2件の主要パイプライン建設プロジェクトについて、覚書(MOU)を締結している(<地図3>参照):
・西シベリアから(新疆ウイグル自治区)アルタイ地域を経由して中国との国境(ロシア/中国/モンゴル/カザフスタンが接する4ヵ国の国境) に至るパイプライン。中国の東西パイプラインと接続されることになっているため、上海へのガス供給が可能となる。「アルタイ・パイプライン」 の中国国境までのロシア側区間2,800キロメートル部分には、約150億ドル(約1兆8,000億円)がかかるであろう。そこから、 中国国内の市場まで更に数千キロメートルのパイプライン輸送が必要となる。これは、西シベリアからフランスまで(のパイプライン)をも凌ぎ、 世界最長のパイプラインとなる可能性がある。
・サハリンまたは東シベリアのクラスノヤルスク/コビクタ/サハ共和国のガス田から、中国、場合によっては韓国までの、東/西/ 中央のいずれかのルートを経由するパイプライン。
これらプロジェクトはいずれも、以下二つの理由により大きく進展しなかったと思われる。一つはロシア国内の政治問題、 もう一つはガス需要に関して中国政府がどれ程の必要性と認識を持っているか、 また高い価格でガスを購入する意志がどれ程あるのかがはっきりしないことである。先ず、ロシア側の問題は、 東シベリア及び極東における全てのガス開発の統括を、同地域のガス田に権益を持たないままガスプロムが任された、 2002年の大統領命令に端を発する。ガスプロムが保有する資源で唯一関係するのは西シベリアの資源だが、前述の通りアルタイ・ パイプライン・プロジェクトの採算性は非常に怪しい。ガスプロムの承認が必要なのだから、 同社が全てのプロジェクトにおいて権益保有者となることは重要である。しかし、TNK-BPが主たる資源を保有するコビクタ・ ガス田のように、その権益取得の過程で大きな問題が浮上しており、同様の問題は、 ロスネフチが数多くの権益を保有するサハリンの残り全てのプロジェクトにおいても起こり得ることである。 サハリンⅠプロジェクトのガスがガスプロムに直接販売されないとした場合、どうなってしまうのか、依然不透明なままである。一方、輸入による更なるガス供給確保に必死であるとの海外側の推測をよそに、中国政府には切迫した様子が殆どない。 中国石油天然ガス集団公司(CNPC)はガスプロムと戦略的パートナーシップ協定を結んでいるため定期的に会合を持つことができるが、 アルタイ・パイプラインのガス価格は2006年末までに合意されるだろうと楽観視されていたにもかかわらず、 2007年3月時点でその実現性は見えていない。これは恐らく、同プロジェクトが商業性に乏しいことを示しているのかもしれない。 交渉及び同地域でのパイプライン建設のためのリードタイムを考慮すると、 アジア市場向けの輸出用として追加的な形でパイプラインまたはLNGとして実質的ガス供給が行われるのは、 サハリンⅡからのものを除けば2015-20年と見るのが最短であろう。その一方で、大西洋地域でもそうしたように、 ガスプロムは数カーゴのLNGを日本及び韓国にスポット販売している。
要約/結論
過去1年で、ガス供給/需要/ 輸出に関してガスプロムの抱える状況は、非常に複雑なことが明らかになった。しかもこれらは、 ガスプロムが抱える重要事項の中で唯一の問題では決してない。国際的な関心は、ウクライナ/ベラルーシ/サハリンの問題に向けられていたが、 国内のガス供給/需要/価格設定を巡る問題の方が、ロシア産ガスの将来的な開発にとってより重要であった。これら国内での出来事、 とりわけガスの価格設定こそが、ロシア産ガスの欧州への最終的な輸出量を決定するのである。 欧州政府が安定供給を気に懸けるあまりにロシア産ガスの供給量を将来的に制限するようになるとは考えにくいが、 ロシア国内の内部事情により2010年代半ばまでの欧州への輸出量が制限される可能性がある。アジアにとって、 輸出面での展開が今後どのようになるかは、主にロシア国内企業の駆け引きと、 中国がガスの消費量を拡大するに当たってより高い価格を払ってでもパイプライン・ ガスを輸入しようとする意志があるかどうかに示されるその切迫感によって決まってくるだろう。【川上】[註14]『シュトコマノフスコエ産ガス、パイプラインで欧州へ』、ガスプロム・プレスリリース、2006年10月9日。 発表されていたパートナー:ノルウェー・スタットオイル、同ノルスク・ハイドロ、米シェブロン、同コノコフィリップス、仏トタール
[註15]『ガスプロム、シュトコマノフスコエに関し、コントラクターとしてのみの参画を外資パートナーに要請』、Gas Matters Today、2007年1月29日
